英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
ヨン・キム 英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
ヨン・キム

 3週間前に英国のロンドンに滞在していた時,驚いたことがある。何気なく新聞を見ていたところ,複数の通信サービスを束ねたバンドル・サービスの広告が予想以上に多かったからだ。中には携帯電話事業者や有料衛星テレビ会社など固定系のアクセス・インフラを持たない事業者が,無料で利用できるブロードバンド・サービスをバンドルしている例もあった。

 英国の通信サービスは,国際・国内通話を問わず,定額で通話可能な固定電話音声サービスとブロードバンド・サービスのセットが当たり前になっている。ブロードバンド用のワイヤレス・ルーターは無料であり,音声サービスはVoIPばかりではなく,加入電話を対象とするケースもあった。

NGNは水平分離の考え方がポイント

 英国の例に漏れず,最近の欧州では通信サービスのバンドルが大きなトレンドとなっている。これまでは「垂直統合型」で一つのサービスを提供してきた通信事業者の考え方が,他事業者のサービスも合わせて提供する「水平分離型」へ移り変わりつつあることを表している。私はこの考え方こそ,今後本格化するNGN(次世代ネットワーク)のネットワークのあり方として,最も重要な部分だと思う。

 もしNGNでネットワーク・インフラのビジネスとサービスを分離し,ネットワークに関連する取引をスムーズに進められるようになれば,通信サービスは横のつながり,つまり水平分離型のビジネスモデルを強く訴求できる。その結果,多くのサービスをバンドルできるようになり,これまでよりも柔軟なサービス料金を設定可能になる。

 これらによってエンド・ユーザーに対するサービスの魅力は増し,通信事業者にとってはARPU(加入者1人当たりの月間平均収入)向上につなげられるだろう。現時点ではNGNによるネットワークの融合は始まったばかりのため,バンドル・サービスの料金設定には足かせがあるのが現状だ。

 自前でネットワーク・インフラを持たない事業者もイノベーティブなサービスが提供できるだろう。ネットワーク技術の制約を受けず,利用者に対して魅力的なサービス・メニューを開発できるからだ。最終的には通信事業者と自前でネットワークを持たない事業者の間で市場中心のオープンな競争が進展し,サービスの品質が向上し料金も下がることを期待できる。

 日本の状況はどうだろうか。NTTのNGNは,新技術を使った次世代プラットフォームという位置付けだ。加入電話網とは独立して構築する新ネットワークであり,当面の間は既存の加入電話網を吸収するネットワークではない。水平分離型サービスの考え方は,まだまだ進んでいないように見え,安価なバンドル・サービスの登場が考えにくい。

 このままでは利用者は,すでに加入済みの通信サービスに加えて,NGN上の新サービスに対して新たに料金を払うことになる。利用者は「料金支払い疲れ」を起こし,単なる新技術のサービスに対して拒絶反応を示す可能性があるのではないか。

ヨン・キム(Yung Kim) 英BTグループ テクノロジー&イノベーション 日本・韓国担当副社長
韓国テグ市出身。韓国の高校を卒業後,ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジに入学。1982年に英BTに入社。2004年5月,BTグループCTOオフィスのテクノロジー&イノベーション担当副社長に就任し,日本に着任した。韓国も担当し日韓の通信技術をウオッチしている。趣味はシングルの腕前のゴルフとジャズを聞くこと。料理も得意。