シャープが太陽電池の生産コストを半分にする。既存の太陽電池工場の生産規模を10倍以上に引き上げるとともに、堺市に巨大な太陽電池の新工場を建設。圧倒的な量産効果で一気に低コスト化し、普及を狙う。

 1月8日に開かれたシャープの年頭会見。片山幹雄社長は「2012年・創業100周年に向けて」と題して事業戦略を発表した。それは液晶と太陽電池に明確に絞った内容だった。

 衆目を集めるのは花形の液晶だ。しかし、同社が今後4~5年でより急速に事業拡大を目指しているのは、液晶ではなく太陽電池だ。

堺工場で価格革命も?

写真1●シャープの太陽電池事業は薄膜型が主流に
写真1●シャープの太陽電池事業は薄膜型が主流に
[画像のクリックで拡大表示]

 シャープの太陽電池の生産能力は現在、年間71万kWで世界トップ。その大半がバルク(塊)タイプの結晶シリコン型で、薄膜シリコン型は同1万5000kWにすぎない。

 現在の太陽電池市場は、変換効率の高い結晶シリコン型が主流だが、シリコン材料の不足が続く中、シリコン使用量が100分の1程度で済む薄膜型が次第にコスト競争力を高め、シェアを伸ばしていくとみられる。

 シャープは、今年10月に奈良県の葛城工場にある薄膜型太陽電池の生産能力を年間1万5000kWから10倍以上の同16万kWに増やす。薄膜型の製造方法は半導体と同様、基板にシリコンを化学的手法で蒸着させる。製造装置への初期投資はかさむが、歩留まり良く量産できれば生産効率は高く、一気にコストが下がる。

 「2010年に太陽電池の発電コストを現在の半分、1kWh当たり23円に下げるめどがたった」。片山社長は、年頭会見でこう表明した。その裏付けには、葛城工場での薄膜型太陽電池の生産規模の拡大がある。

 仮に同23円が達成されれば、一般家庭への普及に弾みが付く。現在は、太陽光発電による電気代削減で、太陽電池の購入費用を取り戻そうとすれば、20年前後かかる。しかし、これが10年前後になれば、経済的メリットによる購入が視野に入る。

 だが、シャープの太陽電池戦略の本命はその次の段階にある。2010年3月までの稼働を目指している大阪府堺市の新工場がその舞台だ。

 堺工場は、次世代の液晶工場と思われがちだが、同時に世界屈指の大規模な太陽電池工場ともいえる。

 シャープは堺工場で、年間最大で100万kWの薄膜型太陽電池を生産する計画を立てている。これは世界トップの生産規模を持つシャープの現在の太陽電池生産能力である年産71万kWを大きく上回る規模。量産効果は、同16万kWの薄膜型を生産する葛城工場の比ではないだろう。

 さらに堺工場は、世界で初めて液晶と薄膜型太陽電池の両方を製造することも、コスト競争力を高める。ガラスに化学的手法でシリコンなどを蒸着する工程は、液晶も同じだ。「工程で使うガスを送る設備など、薄膜型太陽電池と液晶で共有化できるものは多い」と、シャープの太田賢司・専務技術担当は言う。

 つまり堺工場が本格稼働すれば、太陽電池の発電コストは、1kWh当たり23円をさらに下回る可能性が高い。仮に太陽電池が設置後4~5年で元が取れれば、もはや必需品になる。液晶テレビ市場を作ったシャープが次に仕掛けるのは、「1家に1台・太陽電池」時代といえる。

写真2●大阪府堺市の新工場は2010年3月までに薄膜型太陽電池を年産100万kW製造する(左は完成予想図)
写真2●大阪府堺市の新工場は2010年3月までに薄膜型太陽電池を年産100万kW製造する(左は完成予想図)
[画像のクリックで拡大表示]