パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子
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文:千葉 利宏=ジャーナリスト

 地方分権時代を迎えて税務の合理化、効率化が求められるなか、「全国地方公共団体インターネット・シンポジウム」(主催:ヤフー)が1月29日、都内で開催された。会場には約400人の自治体関係者が集まり、このテーマの注目度の高さがうかがえる。インターネット公売や収納に取り組む5自治体によるパネルディスカッションの模様を報告する。

 自治体事例紹介とパネルディスカッションの司会役は、ヤフーのビジネスサービス本部営業推進部の堀博晴氏。東京都主税局徴収部時代にヤフーの協力を得てインターネット公売システムを開発し、自ら利用してインターネット活用の有効性を実感。他の地方公共団体にも利用を広げようと3年前にヤフーに転職した人物である。

インターネット公売--奈良県王寺町、長崎県波佐見町、北海道夕張市

 最初の3団体はインターネット公売の活用事例を報告した。まず登場したのは、インターネット公売を活用するなどして滞納繰越分の徴収率50%を実現した奈良県王寺町総務課長の中野衛氏。2005年4月から2年間務めた税務課長時代に、徴税率を大幅に向上させた。「まず自分自身でしっかり法を学び、そこで財産調査をして、徴収のための計画を作る。そしてその計画を基にして動く。これが徴税業務の基本だ思います」と中野氏は基本姿勢の重要性を強調した。

 王寺町では、2004年度の滞納分徴収率は16.3%にとどまっていたが、2005年度、2006年度と続けて50%以上に改善。滞納繰越率も2004年度の12.5%から2006年度には4.1%と改善された。同町の税収は年間30億円なので滞納額を1億2000万円にまで圧縮できたことになる。

 「インターネット公売という仕組みの導入がきっかけとなって、徴税員は『税金をきちんと払っている方の立場から、取るべきところからきちっと取る。差し押さえという手続きを取らなければならない』という考え方に変わった」と中野氏は振り返った。

 同様にインターネット公売を積極的に活用しているのが、焼き物の町で知られる長崎県波佐見町だ。きっかけは税務課の澤田健一氏が長崎県主催の公売研修に参加したことだった。研修から戻ってすぐに町内に働きかけ、わずか6カ月でインターネット公売の導入にこぎつけた。

 その間に波佐見町職員22人が参加して、滞納整理の管理方法や差し押さえのポイントなどを研修し町のホームページにもインターネット公売のページを用意した。これまでの約2年間で、累計の落札件数は293件、落札額は982万円に達している。2006年4月からヤフーの官公庁オークションに参加して連続参加記録を更新中だ。公売出品物件は約半数が焼き物だという。

 澤田氏は「これまで公売物件は任意提供のものばかり。今後の課題は、高額な財産を差し押さえできるかどうか」と結んだ。

 官公庁オークションを公有財産売却に利用しているのが、財政再建途上にある夕張市だ。今後18年かけて353億円の負債を返済しなければならないだけに、総務省から夕張市に出向して地域再生推進室長を務める畑山栄介氏は、「財政再建計画に見込まれていない歳入を少しでも確保するため」とオークション参加の狙いを説明した。

 「市民などから寄贈された品物が倉庫に数多く眠ったままになっていた。倉庫を管理するだけでも費用と手間がかかる。分譲地も売却できれば定住化促進にもなると考えた」。

 2007年9月の第1回のオークションでは、市長旧公用車、寄贈されていた盆栽などが出品され、1997年に経営破たんした北海道拓殖銀行夕張支店のプレートは7万7777円で落札された。分譲地も15件登録したうち、2件が落札され、合計落札件数は113件、落札金額は900万円となった。今年1月29日締め切りの第2回オークションは「売り出し方も工夫。「"昭和のレトロ"をテーマに出品して、落札金額は560万円になった」(畑山氏)。

 こうして2回の売却で約1500万円の歳入確保を実現した。市職員の意識も変わり、ネットオークションで売却できなかった盆栽を競り売りするイベントを独自に企画。売上高260万円という成果を得た。今後は、市税滞納整理に伴う差し押さえ品の公売にも活用していく考えだ。

自動車税収納=宮崎県、寄付金納付=福井県

 残りの2団体は、2007年4月に解禁となった指定代理納付制度に対応してヤフーが始めたクレジット収納サービス「Yahoo!公金支払い」を利用した事例だった。まず宮崎県の総務部税務課税務企画担当リーダー・主幹、宮本篤氏が2007年5月から8月31日まで「自動車税」を対象に実施したクレジット収納について発表した。取り扱いカードはVISA、Masterの2種類で、支払い方式は一括だけでなく分割、リボ払いにも対応し、納税者に315円(消費税込み)の手数料負担を求めることにした。

 利用件数は全体の1.8%に相当する6996件で、うち5月末までの納期内納付が78.5%、平日夜や休日など金融機関の営業時間外利用は76.4%だった。

 「納期内納付では一括払いが75.1%だったが、納期後は52.5%となり、分割やリボ払いの比率が高くなった。一括払いでは滞納する人も払いやすくなったと言えるかもしれない」(宮本主幹)。

 最後に福井県の総務部男女参画・県民活動課の小林弥生氏が、インターネット活用による寄付金制度を紹介した。

 「きっかけは知事のマニフェスト。福井県で教育を受けても、成人すると県外に出て納税する。ふるさと納税制度の議論も進むなかで、まずは寄付文化を醸成していくことになり、県民活動課が担当することになった」。

 福井県では、税務や広報など部局横断的な課題解決プロジェクトチームを設置した。その議論のなかで、「福井に対する思いを形にするのは寄付だけでなく、ボランティア活動などもあるのでは…」との考えが出された。その一環として、福井県のポータルサイト内に「ふるさと福井応援サイト」を設置した。このサイトは、事業への参加、ボランティア活動、県産品購入など、福井ために何か役立ちたい、応援したいという人向けの情報を集めている。寄付の窓口もここに設けることにした。

 寄付制度の導入で難しいのは、寄付の使い方や謝意の表し方などの仕組みである。福井県では、「寄付を集めるための事業ではなく、県として必要な事業に賛同を得る」という考えで、寄付は一般事業に充当することにし、謝意の表し方もパフォーマンスに陥らないように気をつけた。「おまけ競争にならないように、おまけなしで礼状だけとした」(小林氏)。寄付について個別の氏名、金額は公表しないが、全体の金額や使い道などの情報は透明性を高めるようにした。

 2007年9月に寄付の窓口を既存の電子申請システムのなかに設置。寄付の申し込みの意思確認を行ったうえで、寄付の受付には、(1)県から納付書を送ってもらい銀行の窓口から支払う、(2)口座振込を使う、(3)Yahoo!公金支払いを使ったクレジット納付を使う、という3つの方法を用意した。善意による寄付という性質上、手数料については無料が望ましいというのが福井県の考えだ。(1)の納付書の場合は手数料は不要。(3)のクレジット納付は県が負担することとした。ただし、(2)の口座振込については、窓口やネットバンキングで手数料が異なることから寄付者負担とした。

■変更履歴
本文中で波佐美町としていましたが、正しくは波佐見町です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/03/27 10:40]