「会議に30分遅れても平気」「1人日=18時間で見積もる」など,プロジェクトによっては,常識ではあり得ないことが普通にまかり通っている。こうした驚くべき組織文化に遭遇したときは,どんなに高等なマネジメント技法も通用しないだろう。相手には常識が通用しないのだ。PMOは,その根本的な原因を断つことから始めなければならない。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP


 プロジェクトの現場では,普通なら考えられないようなことが起こります。以下は,私がいままで目にしたことのある現場の状況です。皆さんもこのような事態が起こっている現場を見たことはないでしょうか。


・仕事の目的が,自分(自分の組織)を守ることになっている
・約束や期限が守れないことに,何の罪悪感も抵抗感もない
・現場の運用改善に無関心(いくら忙しくても,今の状況を変えたがらない)
・会議に平気で30分以上遅れる(主催者が時間通りに来ない)
・無断で遅刻しても罪悪感を感じない(当たり前だと思っている)

・議事録から不都合なことを削除する
・人よりも多く残業することが評価基準となっている
・1人日を18時間で見積もる
・情報が権力の源となるため,伝えるべき情報を誰にも伝えない
・正当な理由で客に怒られても反省なし。内部の会議では客の悪口で盛り上がる

・悪いことは報告しない(報告できない雰囲気)
・メールのやり取りの中で,すぐ喧嘩が始まる
・どの会議に誰が出るべきなのか,誰も分からない
・偽装請負の認識が全くない
・必要なソフトウエア・ライセンスがなく,試用版を使いまわしている

・困ったら,すぐに「PMOがなんとかしろ!」と言う
・タスクの依頼メールのあて先が同報アドレス(とりあえず,全員に投げる)
・新メンバーの受け入れ態勢が全くない(放置しっぱなし)
・精神的な負荷が大きく,無断欠勤するメンバーが続出する
・意味もなくチームが増えたり,減ったりと体制が頻繁に変わる

・土日出勤が前提のスケジュールを組む
・何を報告したいのかが分からない無駄な資料が多い
・会議が,問題解決の場ではなく,顧客からしかられる場となっている
・課題管理がされていない(何が課題か分からない)
・現実と乖離したWBSやマスター・スケジュールで進捗管理している。
 あるいはWBSやマスター・スケジュール自体がない

 上記のような現象が起こっている場合,プロジェクトが順調に進んでいることはまずありません。では,どうして上記のような「普通では考えられない事態」が発生してしまうのでしょうか。

 最初はまともな組織文化を持っていたプロジェクトがあったとしましょう。しかし,プロジェクトが危なくなり,休日出勤や徹夜などが続いてプロジェクト・メンバーの士気が低下すると,まさかと思うような習慣が不文律としてプロジェクトに定着してしまうことがあります。

 たとえ優秀なメンバーであったとしても,トラブル続きで日々の業務に追われ,クライアントから毎日叱られてばかりいると,思考力が停止してしまいます。日々,叱られずに乗り切ることが目標となってしまうのです。このように一般的な常識が麻痺してしまう現場を,この目で何度も見てきました。普通ならあり得ない行動が,そのプロジェクトでは当然のこととなり,当事者は何の疑問も持たなくなってしまうのです。

 こんな現場でPMOがどんなに孤軍奮闘しても,暖簾に腕押しの状態となってしまいます。「依頼されたことは責任をもって正しく実施する」という社会人として当然のことができない現場なのですから。