NTT東西地域会社が2008年3月中にも開始する予定の次世代ネットワーク(NGN)サービスで,NGNと他社のネットワークをまたいだ映像配信ができない問題が解消されないまま,NTT東西による活用業務が認可された。他の通信事業者はこの点を問題視し,審議中であるNGNの接続ルールの意見募集で改めてこの問題の解消を訴えている。

 ネットワークをまたぐ映像配信ができないと,映像配信が各社のネットワークごとに閉じたサービスとなる。このためNTT東西以外の通信事業者は,「NGNサービスで先行するNTT東西のネットワークに映像配信事業者が集中し,ユーザーの囲い込みにつながるのではないか」と危惧している。

 NTTのNGNと他社ネットワークをまたいだ映像配信ができない理由の一つに,NTTのNGNでVOD(ビデオ・オン・デマンド)など帯域保証型(QoS)ユニキャストの映像配信向けにSIP(Session Initiation Protocol)が使われている点があげられる。SIPは端末間で通信を開始する際に,音声データや映像データ,ファイルデータなどを転送するための通路を確立するための手順だ。ネットワークを機能的,効率的に利用できる半面,「NTT東西のNGN向けにSIPを利用した映像配信と,自社のネットワーク向けのSIPを使わない映像配信は,共に相手方のネットワークのユーザーにサービスを提供できない問題がある」と,ソフトバンクはいう。

 ソフトバンクは,IP電話など不特定のユーザーが互いに接続を行うサービスの場合にSIPを利用するのは合理的としながらも,映像配信の場合は毎回特定のサーバーに対して接続が行われるため,「SIPを使わなくてもQoS型のサービスは提供できるはず」と指摘する。またKDDIは,「IPTVの標準規格が決まっていない現状で,NTTの独自仕様になる可能性がある」と,SIPを使ったNTTグループの動画配信に否定的だ。

 総務省もこうした問題点は把握しており,2月25日に出した活用業務の認可の際には,「コンテンツ配信事業者の公平な取り扱い」と「コンテンツ配信向けインターフェースの共通化」を認可条件の中に盛り込んでおり,将来的には他社のネットワークをまたぐ動画配信ができるようにすることを求めている。

 実際のサービスとしても,当面SIPを利用した動画配信は登場しないようだ。3月6日にNTTぷららが発表したNGN対応のIPTVサービス「ひかりTV」には,QoSサービス向けのハイビジョン(HDTV)品質のVODサービスが含まれるが,当面はベストエフォートで提供される。想定ユーザーの大多数を占める現在のBフレッツユーザーが,SIPを使うQoSサービスを利用できないためだ。「フルHDの動画配信など,QoSを生かしたサービスも検討中」(NTTぷらら)とはいうものの,具体的なスケジュールは未定だ。