大変な数である。地球の人口がである。世界人口は現在,67億人とも言われているが,正確な統計がない国もあるからこの数字でさえ少ないという意見もある。なにしろ1分間に150人,1日で20万人,1年で8000万人が増加しているというからすさまじい。

 風刺マンガで地球上が人間であふれかえり,あぶれた人間が今にも滑り落ちそうな情景をご覧になられた方も多いと思うが,次の文章を読んでいただきたい。

 「ある国において,無理に人口を増加させたとする。そのためにこの国では国民は最少の食料で生活しなければならないよう,無理やり押し付けられているとしよう。こういうとき,この国は生活に必要な物資は増加しないのに,ある期間人口は継続的に増加するであろう。…(中略)…。このような国には飢餓があるのが当然だ」

 アフリカの人口爆発と飢餓の蔓延を象徴したようなこの文章は最近の人口問題についての憂いを述べたと思われたかもしれない。ところが,今から200年ほど前に書かれたものなのである。作者はマルサス。

200年前に“人口爆発”を予測

 トマス・ロバート・マルサス,1766年生まれの英国人。ちょうど産業革命の勃興から発展段階に生きていた人物で,牧師から経済学者になったという変わった経歴の持ち主である。経済学における古典派としても名高く,穀物法などをめぐって経済学者リカードと論争した。

 このマルサスが1798年に著したのが『人口の原理に関する一論』,つまり『人口論』である。マルサスによれば,人口は幾何級数的に増加するのに対し,食料は算術級数的にしか増加しないから,食料不足は必然と考える。『人口論』は,疫病・戦争・飢饉を過剰人口への自然による救済であると示唆し,さらに第二版では道徳的抑制(結婚年齢の延期など)を主張した。『人口論』は広範な反発を呼び起こし,マルクスなどからも批判された。人口問題は古くて新しい問題なのである。そもそも人類史において狩猟・採集による食料調達の限界が,農耕に踏み切らせた。

 特に欧州は低い土地生産力の中,過剰人口に泣かされてきた。エーゲ海沿岸に建設された都市国家ポリスは過剰人口解決のために建設された植民地ともいえる。それをもっとも大規模に行ったのが英国人だ。北米,オセアニア,南アフリカといった広大な地域を侵略して入植しアングロ・サクソン民族が世界の4分の1を埋め尽くす勢いを示した。