米マイクロソフト(MS)は2月21日,OSなどの技術情報を全面開示すると発表した。非公開だったAPIや通信プロトコルの情報を開示するだけでなく,非商用なら特許の無償利用も許す。オープンソース陣営との対立に終止符を打ち,対グーグルに全力を向ける。

 開示対象は「Windows Vista」や「Office 2007」など企業向け6製品。手始めにOSの通信プロトコルを記した技術文書3万ページ超を,同社サイトに掲載した。今後,数カ月以内に他製品の情報も公開する。

 従来はマイクロソフトとライセンス契約を結ばなければ,これらの情報にアクセスできなかった。このほか主要製品における業界標準の実装方法や独自の拡張部分を開示したり,他社がOffice文書の仕様を拡張するためのAPIを追加したりする意向も表明。囲い込み路線の放棄をアピールした。

 競合他社やオープンソース・ソフト(OSS)の開発者は,開示情報を使って自由にソフトを開発・配布できる。マイクロソフトは特許を持つ技術を他社に低料金でライセンス供与するなど,知的財産面でも譲る。ソースコードを公開したわけではないが,マイクロソフト製品と密接に連携するソフトを作りやすくなるのは確かだろう。

 実はここまでの施策は昨年10月の欧州連合(EU)・欧州委員会との合意を実行しただけにすぎない。マイクロソフトは2004年3月から欧州委員会と独占禁止法違反を巡って係争していた。

 マイクロソフトの真意は,欧州委員会との合意を超えた部分に潜んでいる。すなわち「非商用目的のソフトには,同社が持つ特許の無償利用を許す」と確約したことだ。

 これによりOSSの開発者は,知らぬ間にマイクロソフトの特許を侵害し,巨額の賠償請求を受ける懸念から解放された。法的リスクが大幅に減るので,企業もOSSを利用しやすくなる。

 つまり10年弱にわたって競合してきたオープンソース陣営にマイクロソフトの側から“停戦”を申し入れた格好だ。米ヤフーの買収交渉の行く末は見えないが,米グーグルとの戦いに全力で当たるには,2正面作戦を避けるのが賢明と判断した。独占禁止法当局やOSS開発者の歓心を得られれば,今後のネットサービスの競争も優位に進められるとの読みもある()。

図●米マイクロソフトの情報開示の姿勢。時代ごとの「仮想敵」に対応して変化してきた
図●米マイクロソフトの情報開示の姿勢
時代ごとの「仮想敵」に対応して変化してきた
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 ただし,思惑通りにことを進めるには情報開示と特許の無償利用が実効力を持つのが不可欠。例えば,これまでマイクロソフトの開示情報と実装のずれに悩まされてきた開発者を納得させられるかどうか。公約の順守が求められる。