英BTグループ テクノロジー&イノベーション 日本・韓国担当副社長 ヨン・キム |
最近,ビジネス関連の記事で「オープン・イノベーション」という表現をよく見かけるようになった。米カルフォニア大学バークレー校のヘンリー・チェスブロウ非常勤教授が2003年に出版した著書「Open Innovation」が始まりである。
欧米の通信産業でもオープン・イノベーションは重要なキーワードだ。英BTや米ベライゾン,NTTなど多くの通信会社がNGN(次世代ネットワーク)によるオープンなネットワーク戦略を発表し,新たなイノベーションを起こすことを狙っているからだ。
これまでイノベーションという言葉は,主に優れた組織作りや市場競争に勝利することに使われてきた。特に技術分野のイノベーションは,伝統的に企業内の研究開発部門が担当し,そこでの成果は企業内で守られ,サービスや製品を特徴付ける原動力になっていた。これを私はクローズド・イノベーション・モデルと呼んでいる。
ところが現代のデジタル・ネットワーク経済においては,クローズド・イノベーション・モデルは企業の継続的発展に貢献しづらくなっている。なぜなら現代の消費者の要望は目まぐるしく変化するため,クローズド・モデルに集中的に投資しても,ビジネスが成功する保証はどこにもないからだ。
だからこそオープン・イノベーションによって,外部リソースや外の最善の成果を自らの組織に積極的に導入し,自前の成果を補完することが求められる。
鉄道から車の移り変わりに似たNGN
現在,通信業界ではNGNの構築が進行中だ。これは通信会社にとってオープン・イノベーションを起こすチャンスと言える。NGNがオープン・プラットフォームとなることで外部のイノベーターを呼び込み,新たなビジネスの創造に参加してもらえるからだ。
これは新しい考え方ではない。人気を博したNTTドコモのiモード開発には,多くの外部イノベーターの参画があった。今になってみれば,NTTドコモがさらにネットワークをオープンにしていれば,もっと新しいサービスがネットワーク上で展開されたと思う。
オープンなプラットフォームの最大の成功例はインターネットだろう。誰もが参加できるインターネットの出現は多くのイノベーターの心をとらえ,グローバルな新ビジネスを歴史上比類ないほど創造した。米グーグルや米イーベイ,米アマゾンなどはその中から生まれている。しかもすべてはこの10年の間に起こっている。
BTやベライゾンなどのオープン戦略の度合いは様々だが,本当の意味でオープンなNGNはユーザー参加型の性格を帯びてくる。それがインターネットに続く次の波を生むのではないか。
クローズドな通信事業からオープンなNGNへの移行は,19世紀の鉄道の時代から20世紀の自動車の時代への変化に似ている。21世紀の現在,私たちはモータリゼーションの限りない発展と,どこにでも行ける道路網の発達をこの目で実際に見ている。オープンなNGNの登場によって,同じような変化を起こせるのではないだろうか。
|