クライアントPCのハードウエア,OS,アプリケーションのバージョンをできるだけ統一したい――。クライアントPCの管理に悩む企業なら,どこでもそう考えているだろう。ハード,OS,アプリケーションの組み合わせが多いほどサポートが大変だからだ。Windows Vistaが登場してから,新規購入するクライアントPCのOSをWindows XPにするか,Windows Vistaにするかで迷う企業が多いのも,背景には「できればXPで統一しておきたい」という強いニーズがある。

 しかし,Windows XPをプリインストールしたPCを入手できるのは今年の6月末まで。デスクトップOSをXPで統一したくても,7月以降はいろいろと面倒なことになる。XPでは利用できないデバイスが出てくる可能性もある。どの企業もいつかは新しいOSに切り替えなければならないが,そのタイミングがベンダー側の販売方針やPCのモデルチェンジに大きく左右されてしまうところが悩ましい。

“仮想クライアント・マシン”でOSやアプリを動かす

 そんな問題を,仮想化技術が緩和してくれるのではないかと期待している。具体的には,「デスクトップ仮想化」と呼ばれる技術である。「サーバー,ストレージに続いて,今度はデスクトップか」と,一部にわくわくする人がいる一方で,仮想化技術全般にいま一つピンとこない人も多いと思うが,仮想化は重要なITトレンドの一つと言って間違いない。

 「デスクトップ仮想化」という言葉を初めて聞いた人は,その実態をイメージしづらいだろう。平たく言うと,シンクライアント・システムの一形態である。デスクトップのOSとアプリケーションをサーバー上で動かし,その画面だけをシンクライアント端末などに転送して表示する,というシステム形態になる。

 従来型のシンクライアント・システムと大きく異なる点は,サーバーに仮想化ソフトを導入してユーザーごとの「仮想クライアント・マシン」を用意し,その上でOSやアプリケーションを実行するところにある。今年1月末に開催されたITpro EXPO 2008の仮想化パビリオンでは,NTTデータがこのタイプのシンクライアント・システムをデモンストレーションしていた。

 担当者の話によれば,16CPUコア,64Gバイト・メモリー搭載のサーバーで,仮想化したWindows XPクライアント・マシンを100台以上稼働させている実績があるという。ユーザーのパソコン利用状況が分からないので,あくまでも一つの例と考えてほしいが,1CPUコア当たり6台以上の仮想クライアント・マシンを動かせるということは,各クライアントのCPU利用率が「平均するとかなり低い」ことがよく分かる。

 デスクトップ仮想化の導入メリットとしては,デスクトップ環境を一元管理しやすい,サーバー側で仮想クライアント・マシンを丸ごとバックアップできる,省電力につながるなど,いろいろ挙げられる。だが,「クライアントPCのハードウエア,OS,アプリケーションのバージョンをできるだけ統一したい」というニーズに対しては,「ハードウエアを仮想化すること」が一番のメリットになるだろう。

Windows XPなら2014年まで使う手もある!?

 なにしろ,クライアントPCのハードウエアに相当する部分は「仮想マシン」であり,完全に統一されている。仮想マシンと物理ハードウエアは分離されているので,デスクトップ仮想化環境を構築できるサーバー・マシンであれば何でもよい。物理ハードウエアの入れ替えや増強も容易だ。OSについても,「対応ハードウエアが入手できない」という理由だけで新OSに乗り換える必要はなくなる。ベンダーの販売方針やPCのモデルチェンジに左右されず,OSの利用期間を企業側が決める自由度が高くなる。

 仮にWindows XPクライアントを仮想化環境で実行しているとするなら,XP用セキュリティ・パッチの提供サポートが終了する2014年4月まではXPを使い続ける選択肢も取り得る。もちろん,そんな先までXPを使い続けるとデメリットも生じるだろうから,決して推奨されることではないが,とりあえず猶予期間が長いという点はありがたいのではないだろうか。

 このようにデスクトップ仮想化がクライアントPC管理の問題を緩和してくれるのではないかと期待はできる。ただし,まだ新しい技術なので国内の導入例は少なく,構築や運用にかかるコストの相場が見えていない。そもそもシンクライアントなので,通常のクライアントPCと比べてメリットもあれば制約もある。さらに,技術的に仮想化できないクライアントPC環境があるかもしれないし,デスクトップ仮想化に適したライセンスが整備されていないという課題もある。そのようなわけで,あらゆる企業が今すぐメリットを享受できるとは言いがたい。それでも,仮想化市場は急速に拡大しているので,今後の動向にぜひとも注目してもらいたい。