携帯/PHS事業者4社は青少年のユーザーに対し,フィルタリング・サービスの加入を原則とする。だが,一般のSNSまでも規制対象となる事態に,ユーザーやコンテンツ事業者が不満の声を上げている。この状況を是正すべく4月,第三者機関の認証がスタートする。“健全サイト”の基準を巡る議論が大詰めを迎える。

写真1●18歳未満の携帯電話/PHS新規契約者はフィルタリング・サービスへの加入が原則へ
写真1●18歳未満の携帯電話/PHS新規契約者はフィルタリング・サービスへの加入が原則へ
親権者の同意が無ければアクセス規制を解除できない。2008年6月以降順次,既存ユーザーの原則加入が始まる。

 携帯電話/PHS事業者4社は2008年1月から2月にかけて,アダルトや出会い系サイトの利用を制限するフィルタリング・サービスを,未成年の新規契約者に対して原則適用し始めた。

 問題は,SNSやブログといった一般のコミュニティ・サイトなども“出会い系”に準じる分類を受けてフィルタリングされてしまうこと(写真1)。高校生など未成年のユーザーを多く抱える携帯向けコンテンツ事業者は,自らのサービスが“有害”とされた状況にある。6月以降は18歳未満の既存契約者にも原則適用されるため,サービスの存続にも影響しかねない。とはいえ青少年保護は喫緊の課題であり,コンテンツ事業者は,フィルタリングを受け入れざるを得ないのが現状だ。


第三者機関で一律規制を回避

 携帯/PHS4社が青少年へのフィルタリング・サービス原則適用を決めたのは,2007年12月の総務大臣要請によるところが大きい。これまでも総務省は,2006年11月に加入の推奨を,2007年2月には警察庁と文部科学省と合同で普及促進をそれぞれ要請してきた経緯があり,フィルタリング自体は降って沸いてきた話ではない(図1)。ただ,サービスを制限することはユーザーへのサービス低下にもつながるため,一部の子供向けサービスを除き,フィルタリングに対しては及び腰だった。

図1●有害サイトへのアクセスを規制する「携帯フィルタリング・サービス」原則適用への道すじ
図1●有害サイトへのアクセスを規制する「携帯フィルタリング・サービス」原則適用への道すじ
総務省の要請を受け,携帯電話/PHS事業者は2月から18歳未満ユーザーへの原則適用を開始。4月には第三者機関が発足し,フィルタリング非対象を担保するサイト認証が始まる。
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 潮目が変わったのは2007年11月。未成年者が多く集う携帯サイトに端を発した殺人事件が発生。総務省も「出会い系サイトをきっかけにした青少年の犯罪被害は減っていない」(消費者行政課の内藤新一課長補佐)との認識の下,「健全なコンテンツ・ビジネスの展開の妨げにならないよう配慮」という文言を織り交ぜ,携帯/PHS4社に対してフィルタリングを原則適用するよう要請した。

 行政の動きに対し,コンテンツ事業者も「時間をかけて議論すべきだが,被害が出ている以上はフィルタリングありきで議論を進めざるを得ない」(業界団体であるモバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)の岸原孝昌事務局長)と判断。MCFを中心に,携帯サイトの健全性の認証と青少年の保護を目的とした第三者機関「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(仮称)」の立ち上げに動いた(図2)。第三者機関は,審査を通り認証を得たサイトについては,フィルタリングの対象としないよう促していく。認証の審査は2008年4月から開始される。

図2●2008年4月以降の携帯電話向けWebフィルタリングの枠組み
図2●2008年4月以降の携帯電話向けWebフィルタリングの枠組み
アクセス規制を免れる手段を用意することで,コンテンツ事業者の救済策を用意する。
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認証取得の効果は不透明

 とはいえ健全性の認証は一筋縄ではいかない。1月31日の第三者機関設立準備委員会では,(1)認証の強制力の担保,(2)短期間での基準作りの妥当性,(3)認証にかかる費用負担──などが問題点として出席者から指摘された。

 (1)の強制力の担保は,携帯/PHS事業者を所管する総務省がカギを握る。ただ検閲との声もある施策だけに,総務省は距離を置いているように見える。委員会にオブザーバとして参加したKDDIは「(認証に対して)総務省の後ろ盾は得られるのか」と質問したが,総務省は態度を明確にしなかった。今後の方策についても,「問題ないサイトがフィルタリングされる今のサービスは使いづらい。携帯/PHS事業者には改善を働きかける」(総務省の内藤課長補佐)とのレベルにとどまり,認証についての態度は明確にしない。

 (2)の妥当性は,基準と審査の透明性確保が欠かせない。そこで「不適切書き込みに対する削除所要時間」といった数値目標にまで踏み込むことで,客観的な審査を実現する構えだ(表1)。

表1●SNSやブログなどのコミュニティ・サイトの運営・管理体制を認証する基準案の主要項目
2008年4月中に具体的な数値目標(表中赤字)を,商用/非商用,ユーザー規模といったカテゴリ別に定める方針。基準案や設立計画はhttp://www.mcf.to/contents/index.htmlで公開されている。
表1●SNSやブログなどのコミュニティ・サイトの運営・管理体制を認証する基準案の主要項目

 具体的な目標値に関しては,まず「大規模商用サイト」向けを最も厳格な基準とする方針。サイトの規模に応じて基準を緩めながら展開する。

 (3)の費用負担は,コンテンツ事業者に重くのしかかる。サイト巡回人員の増員や検知システムの新規導入などが必要だからだ。サイトの規模によっては,経営悪化を招きかねない。

 例えば300万超のユーザーを抱えるSNS大手グリーの青柳直樹取締役は,準備委員会の会合で「大規模サイトは,費用対効果の面で問題が出るのではないか。費用がかさむと新しいサービスを出せなくなる可能性がある」と指摘。これに対し総務省は,「有害情報を検知するツールの無償提供などの支援はあり得る」(内藤課長補佐)とする。

 携帯/PHS事業者に対して異例とも言える原則適用を要請した総務省,それを受けた施策を順次始めている携帯/PHS事業者──。日本が誇る携帯コンテンツ産業の衰退を招きかねないだけに,第三者機関の議論に俄然注目が集まる。