進捗会議を定期的に開いていても,現場の状況が見えないことがある。そんなときは,PMOとリーダーで事前に打ち合わせを行い,進捗状況の深堀り(原因・本質の追求)をすることで,現場からの報告精度を改善していく手がある。

川上愛二
マネジメントソリューションズ マネージャー


 各チームの状況を確認,共有する目的で進捗会議を開催しますが,しばしば「現場の状況が見えない」という声が上がります。例えば,進捗会議の中で,以下のような報告を聞いたことはないでしょうか。

Aチームリーダー:「作業Aが予定より3日遅れています。来週は作業Aについて要員を追加することでリカバリする予定です」

 一見,遅れが明確になっていて,リカバリ策が提示されているので,進捗報告としては良いような気がします。ただ,そもそも「なぜ作業Aが遅れたのか」という点と,「作業Aが遅れることによる全体への影響」が明確になっていません。原因追求と影響分析の2点は,現場のリーダーがつい見落としがちになるものです。

 そこで改善策としては,進捗報告フォーマットでこれらの点を記載する欄を設けることが挙げられます。

◇遅延作業
◇遅延日数,作業工数
◇原因
◇影響(他チーム作業,QCD)
◇リカバリ策
◇取り戻し時期

 ただし,進捗報告フォーマットに上記の項目を追加しても,なかなか報告の質が変わらないこともあります。というのも,原因追求と影響分析というのは,リーダー1人で行うことが難しい作業だからです。

自チームの進捗遅れの原因をつつかれたくない

 原因を追究する作業は,自チーム内に責任がある場合,リーダーにとっては非常につらいものです。それゆえ,原因を曖昧にしてしまいがちです。たとえ記載ができたとしても,薄いものになるでしょう。また,現場リーダーとして遅延報告をする際は,やはり引け目がありますので,ついつい原因追求よりもリカバリ策の検討に走ってしまう傾向があります。

 原因が明確になっていないリカバリ策は,根拠がなく信頼できるものではありません。原因が明確でないと改善につながらない,という問題もあります。影響分析という点でも,現場リーダーの視点は近視眼的になっているケースが多いでしょう。そのため,他チームへの影響や,フェーズ完了/全体計画のQCDという観点で考えることは難しいのです。

 そこで,これらの点については,小回りがきくPMOがサポートすることで改善が可能です。進捗会議の前に,チームリーダーと報告内容を確認する場を設けるのです。原因追求を進捗会議の中でやるとギスギスするものなので,個別に聞くほうが,いろいろと情報が出てきます。

 例えば,要員の問題など,気にはなっていても相談相手がおらず,リーダーが1人で悩んでいるケースもあります。PMOとの対話の中で原因の本質を探り,論理的にレポートに記載してもらうようにします。影響分析についても,客観的,全体的な視点を持ったPMOと対話することで,深堀りが可能となります。また,リーダーも業務知識が少ないPMOと話すことで,課題の論点が明確になったり,現場から一歩下がって,客観的,全体的な視点で話すことができます。

非公式な個別ヒアリングだと,重要なリスクがぽろっと出やすい

 意外なことに,こういう個別ヒアリングの中から重要なリスクがぽろっと出るものです。このようなリスクも拾い上げ,レポートに記載してもらいます。加えて,プロジェクトの方向性やプロジェクトマネジャが懸念しているポイントをリーダーに伝えて,進捗報告に加筆してもらうなど,プロジェクトマネジャと現場のベクトルを合わせる良い機会になります。遅れがちなToDoや課題についてのきめ細かいフォローの場にもなるでしょう。

 大規模プロジェクトではマルチベンダー体制になっているせいもあり,なかなかコミュニケーションが円滑にならなかったり,チームによっては言いたいことが言えない場合があります。このようなチームにヒアリングを実施すると,愚痴などが滝のように出てきますが,そんな中からプロジェクト全体にエスカレーションして解決すべきものを話し合っていくことも重要です。事前にPMOと打ち合わせをしているため,リーダーが進捗会議で報告しづらい状況になっても,PMOが助け舟を出したり,バックアップすることが可能です。

 事前打ち合わせというと,最初は各チームから抵抗があるかもしれません。しかし,報告精度を上げる一時的な作業として実施していけばよいと思います。報告精度が向上し,見える化が実現してくれば,打ち合わせはやめて,立ち話程度でフォローしていけばよいでしょう。このような視点で書かれた進捗報告であれば,プロジェクトマネジャも納得しますし,進捗会議の中でより深い議論に時間を使っていくことができます。


川上愛二(かわかみ あいじ)

 大学卒業後、独立系SIコンサルティング会社のシーアイエス(現ソニーグローバルソリューションズ)に入社。グローバルSCMシステム開発などの大規模プロジェクトを経験。

 現在は、コンサルテーションから、自社開発のソフトウエア提供、改革実施後のチェンジマネジメントまで、「知恵作りのマネジメント」を支援するマネジメントソリューションズに在籍。各種プロジェクトでPMO業務に従事している。連絡先は info@mgmtsol.co.jp