2008年2月13日にスカパーJSATは,長年のライバルであった三菱グループの衛星通信事業者である宇宙通信(SCC)を280億円で買収すると発表した。今回から2回にわたり,日本の衛星通信ビジネスで独占事業体となったスカパーJSATの今後の課題について考えてみる。

 電子情報技術産業協会(JEITA)の調査によると2008年1月末現在で,地上デジタル放送受信機のうちテレビ受像機の累積出荷台数は,2000万台にあと1歩に迫る1920万台に達している。ケーブルテレビ(CATV)用STB(セットトップボックス)は500万台を超え,DVDレコーダーなどのデジタルレコーダーは570万台を超えた。


日本のテレビ放送におけるスカパーJSATの位置付け

 そして,スカパーJSAT傘下のスカイパーフェクト・コミュニケーションズが提供する東経124・128度CS放送「スカイパーフェクTV!」用受信機が,稼働実績ベースで400万台あまり普及していると仮定する。おおまかに言うと,何らかのデジタル放送を視聴している世帯は、既に日本の全世帯の半数を超えているのではないかと推定できる(デジタル波をアナログ波に変換している世帯を除く)。

 総務省は2008年度に,共同受信世帯などを対象としたデジタル放送の視聴動向調査を行う予定である。個別のデジタル放送の番組がどのような形態でそれぞれの家庭で視聴されているのかを明らかにすれば、スカパーJSATの置かれている現状が整理されるであろう。1996年秋の「PerfecTV!」の放送開始から10年以上が経過した現在の衛星放送市場は,地上デジタル放送とBSデジタル放送,東経110度CS放送を受信できる「3波共用機」の薄型テレビが普及の王道になってきている。


ハイビジョンが衛星放送のスタンダードに

2月14日に開かれたスカパーJSATの2007年度第3四半期決算発表会のようす
写真●2月14日に開かれたスカパーJSATの2007年度第3四半期決算発表会のようす
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 スカパーJSATの2007年度第3四半期決算を見ても薄型テレビの普及に比例するかのように,東経110度CS放送「e2 by スカパー!」の新規加入者が,スカイパーフェクTV!のそれよりも多くなってきている(写真)。スカイパーフェクトは今春からe2 by スカパー!において,「フジテレビCSハイビジョン」(現在のフジテレビ721と同739からの混合編成によるハイビジョンチャンネル)と,ジュピターTV系の「Lala TV」と「ムービープラス」のハイビジョン版を放送する予定である。これでe2 by スカパー!のハイビジョンチャンネルは合計で7チャンネルになる。2007年12月にBSデジタル放送において,二つの無料チャンネルと一つの有料の映画専門チャンネルがハイビジョン画質で始まったことも,ハイビジョン放送をスタンダードにしなければ激烈な生き残り競争に勝てないという状況を生んでいる。

 CATVだけで視聴できる「ディスカバリーHD」や「Fox HD」,そして今春にハイビジョンで放送開始予定の「チャンネル銀河」や「ザ・シネマ」などもあり,スカパーJSATにとってCS放送の高画質化では,東経110度CS放送用衛星を共同運用するSCCとの調整が常にテーマになっていた。今回のSCCの買収によりスカパーJSATは,SCCの経営資源を用いながらより機動的にe2 by スカパー!のハイビジョン比率を上げようとしている。そしてスカイパーフェクTV!においても今秋には,映画やスポーツ,音楽イベントを中心としたハイビジョン放送が始まる予定である。ただしこちらは,販売戦略面で渡らなくてはならない長い橋がある。

 現在,家電量販店の現場では,「地上デジタル放送とBSデジタル放送が高画質の無料放送」、「有料の多チャンネル放送ならスカイパーフェクTV!」という認識が大多数である。東経110度CS放送の名称である「e2 by スカパー!」の認知度があまり上がっていない状態で,スカイパーフェクTV!のハイビジョンサービス「スカパー!-HD」用受信機の販促プロモーションをかけなければならない。

 次回は,放送が完全にデジタル化される2011年までの期間を,スカパーJSATがいかに乗り切るかの課題について整理したい。


佐藤 和俊(さとう かずとし)
茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。