初期費用も年間利用料金も不要なウイルス対策ソフトで知られるキングソフト(金山軟件有限公司)。セキュリティ以外でも、Microsoft Officeとの互換性が高いといわれるオフィス・ソフトを5000円程度で販売するなど、日本市場での価格破壊を推し進めている。

 その大胆なビジネス・モデルは、どのような戦略に裏打ちされたものなのか。取締役である翁 永飆(おう えいひょう)氏と、同じく取締役の沈 海寅(しん かいいん)氏に、その真意を聞いた。

無料のウイルス対策ソフトを提供していることで有名だが、これが事業の柱と考えてよいのか。

キングソフト 取締役の沈 海寅氏(左)と翁 永飆氏
キングソフト 取締役の沈 海寅氏(左)と翁 永飆氏

 中国市場では、ソフトウエア開発・販売事業のほかに、実はもう一つ事業の柱がある。オンライン・ゲームの開発・サービス提供だ。

 オンライン・ゲーム分野では、他社のように米国製や韓国製のゲームを提供するのではなく、自社で開発したゲームを提供している。自社開発のゲームを扱う事業者としては、中国最大手といっていい。

ソフトウエア開発・販売事業で扱う製品の分野とビジネス・モデルを説明してほしい。

 中国のソフトウエア市場において、コンシューマー向けの売り上げでは当社のシェアが1位だ。当社が手がけているソフトウエアは、大きく分けてウイルス対策ソフト、オフィス・ソフト、辞書ソフトの3種類。このうち、日本ではウイルス対策ソフト「KINGSOFT InternetSecurity」とオフィス・ソフト「KINGSOFT Office2007」の2つを提供している。

 KINGSOFT InternetSecurityは広告モデルを採用し、ユーザーが無償で利用できるようにしている。ユーザーがパソコンにInternetSecurityをインストールすると、管理画面などにネット広告を表示する仕組みだ。これによって収益を得ている。

なぜそのような広告モデルを採用しているのか。

 セキュリティ対策ソフトに対して、日本のユーザーは保守的であり、ブランド意識が高いことが背景にある。日本のユーザーの多くはシマンテックやトレンドマイクロの製品を利用し、ほかの製品が優れていても、あまり乗り換えようとしない。そこで、思い切って無料で製品を提供するモデルを採用した。

 実は、2005年に「KINGSOFT InternetSecurity2006」を日本で発売した当初は、パッケージを1980円で販売し、更新料は採らない、という価格設定にしていた。それでも、他社のようにパッケージとは別に更新料を毎年取る方式に比べて、価格競争力が高かった。

 2007年からはユーザー数の拡大を狙い、ネット広告による収入をベースとしたビジネス・モデルに転換した。現時点では、まだ広告収入によって採算が取れている状況にはないが、製品を無料にしたことでユーザー数は確実に増えている。ユーザー数が増えれば、広告収入も今後、確実に増える。

 ユーザーのパソコン買い換えサイクルを3~5年とすると、1980円で販売していた頃の収益は、1ユーザーあたり年間数百円だったことになる。このレベルの収益は、将来的にはネット広告だけでも十分に達成できると考えている。