2009年11月。日本の証券業界の情報システムに、過去にない大規模な変化が起きる。東京証券取引所の次世代売買システムが稼働するのだ。

 次世代売買システムでは、注文1件の処理にかかる時間は10ミリ秒。現在の数秒から100分の1以下に縮まる。スピードアップに伴い、あらかじめ定めた条件に従ってコンピュータで売買を自動発注する「アルゴリズム取引」など、多様な注文方法を選択できるようになる。

 日本の証券会社が現在運用しているシステムは、こうした注文の多様化に対応できていない。そこで大和証券SMBCは、新システムの構築を決めた。

 ところが、日本ではアルゴリズム取引が欧米ほど普及していないことから、大和SMBCが求めるシステムを開発した経験のあるベンダーがほとんどない。半年以上の検討期間を経て、同社が発注先に選んだのは、インド最大手のタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)である。

インド人の経験と頭脳に期待

  写真1●大和証券SMBCの村里耕二システム企画部長
写真1●大和証券SMBCの村里耕二システム企画部長
[画像のクリックで拡大表示]
 
写真2●タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)のスディール・ワリア氏
写真2●タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)のスディール・ワリア氏
[画像のクリックで拡大表示]
 
写真3●TCSのウマ・リジワニ氏(最前列左の女性)と、大和証券SMBC向けチーム
写真3●TCSのウマ・リジワニ氏(最前列左の女性)と、大和証券SMBC向けチーム
[画像のクリックで拡大表示]

 大和証券SMBCの村里耕二システム企画部長(写真1)は、発注先としてTCSを選んだ理由について、「欧米の投資銀行や証券会社などのシステムを多数構築したTCSの実績を評価した」と説明する。

 TCSのバンガロール拠点で銀行・金融サービス部門の責任者を務めるスディール・ワリア氏(写真2)は、「この拠点で担当している仕事は、欧米など世界の投資銀行や証券会社10社以上から受注したもの」と強調する。

 TCSは通常、日本の顧客の開発拠点をコルカタに構える。日本の文化や商習慣を理解した日本語を話せる技術者を集めているからだ。だが、TCSで大和SMBCを担当するチームは、金融部門の総本山であるバンガロールに拠点を設置した。“日本対応”よりも、金融の知識やノウハウを優先したのである。TCSがこのような判断を下したのは、大和SMBCが「仕様書は英語で書く。納入してもらうシステムの画面も、すべて英語表記を採用する」(村里部長)という覚悟を決めたからこそ、である。

 TCSは大和SMBC担当として、バンガロールで働く6000人の金融技術者から、保有する技術や業務知識に応じて30人の精鋭を選んだ。リーダーのウマ・リジワニ氏(写真3)は、大手投資銀行のプロジェクト・マネジャの経験を買われ、起用された。

 30人の専任メンバーとは別に、TCSは証券業務そのものに詳しい専門チームも確保。必要に応じてプロジェクトにアサインする。大和SMBCの村里部長は、「インド人技術者の経験と頭脳に期待している」と話す。

ピーク時は100人体制に

 大和SMBC向けのプロジェクト・チームは、現時点では30人ぐらい。ピーク時には100人を超える規模に到達する見込みだ。

 TCSジャパンの梶正彦社長は、「インド・ベンダーの実力を日本に知らしめる絶好の機会だ。なんとしても成功させたい」と意気込む。

 高度な技術力が必要な先進システムの分野でインド・ベンダーを活用する動きが、日本のユーザー企業の間でも始まりつつある。

■本特集に関連して、日経コンピュータ3月1日号に特集「IT鎖国の終焉 グローバル・ソーシングの幕開け」を掲載しています。ぜひ併せてお読みください。


<過去に掲載したグローバル・ソーシング関連特集>

オフショア最前線(全9回)

ベトナムの底力(全13回)

押し寄せるインドのITパワー(全10回)

これがITのチャイナ・リスクだ(全7回)

グローバル・ソーシングを語る(全4回)