写真1●東芝の峯村正樹ISセンター長
写真1●東芝の峯村正樹ISセンター長
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写真2●タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)がインドのコルカタに構える日本向けオフショア開発センターで働く幹部たち
写真2●タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)がインドのコルカタに構える日本向けオフショア開発センターで働く幹部たち。東芝の仕事もここで請け負っている
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 「インドのベンダーと付き合ってみて、自分たちの仕事の進め方が世界標準からずれていることを実感した」。東芝の峯村正樹ISセンター長(写真1)は、こう振り返る。

 東芝は社内システム関連で2000人のIT技術者を社外から調達しており、そのうち平均で2割程度をインド系ベンダーが占めるとみられる。発注している業務領域は、社内分社のセミコンダクター社やデジタルメディアネットワーク社におけるSCMシステムの開発や運用保守など。発注先の中心は、インフォシス・テクノロジーズと、最大手のタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)だ(写真2)。

 東芝がインドのベンダーと付き合い始めたのは1990年代後半のこと。米オラクルのERPパッケージ「Oracle EBS」と、i2テクノロジーズの需要予測ソフト「i2」を導入するプロジェクトである。

 今でこそEBSの技術者は国内にもたくさんいるが、「当時はEBSを扱える技術者がまだ少なかった」(峯村センター長)。そこで、欧米でデファクト・スタンダード(事実上の標準)となった業務パッケージに精通したエンジニアを豊富に抱えるインフォシスに声を掛けたのが始まりだ。

CMMIに準拠したプロジェクト管理手法を整備

 当初は「インドのベンダーとの付き合い方が分からず苦労した」(峯村センター長)。これまで日本のベンダーには通じた仕様書の記述があいまいだと指摘され、仕様を理解してもらえないケースがあったという。開発プロセスや成果物の承認ルールが不明確だとも指摘された。「開発標準などは文書化していたが、グローバルの標準と照らし合わせると、改善の余地があることに気づかされた」(同)。

 インド・ベンダーの幹部は、「顧客企業から開発などの仕事を請け負う際、まずは顧客企業が普段使っている開発方法論と自社との違いを確認する作業から入る」と説明。「ほとんどの日本企業はこの作業でいきなりつまずく」と付け加える。東芝もそうだった。

 ここから東芝のIT部門は奮起する。2001年に、ソフトウエア開発プロセスの成熟度を示す「CMMI」に準拠した独自のプロジェクト管理手法「QMSI」を整備。2005年にはCMMIレベル5を取得した。グローバル・ベンダーを使いこなすには、自らの仕事の進め方も世界標準に準拠しておくべきと考えて行動に移したのだ。グローバルで使うシステムの仕様書は日本人でも英語で書くなど、IT部門のグローバル対応も進んでいる。

「いいシステムを作ってもらうには、発注側がしっかり要件を書くべき」

 「仕様書の品質はシステムの品質に直結する。いいシステムを作ってもらうには、発注側がしっかり要件を書かなければならない」。峯村センター長は断言する。「仕様書に書かなければ実装してもらえないのが当たり前だと肝に銘じるべきだ」と続ける。

 東芝は半年に1回の割合で、発注先であるインド・ベンダーの仕事の進め方について定期監査を実施している。セキュリティのレベルや作業プロセスを確認することが目的だ。そこで細かい問題点を見つけると、改善を促す。

 当初は開発の委託が中心だったが、現在は保守や運用のほか、サポート要員としてもインド人技術者を利用している。というのも、東芝のSCMシステムは欧米拠点でも使うグローバル・システム。海外の利用者向けに、英語で24時間のサポート体制を整える必要があるのだ。峯村センター長は「国内ベンダーには難しい要件だ」と断言する。

 「来週、技術者を100人増やしてほしいと電話で頼めば、すぐに対応してもらえる」。峯村ISセンター長は、インド・ベンダーの動員力の魅力を語る。こうしたインド・ベンダーの強みを生かすには、ユーザー企業が“発注力”を身に付けなければならないのである。

■本特集に関連して、日経コンピュータ3月1日号に特集「IT鎖国の終焉 グローバル・ソーシングの幕開け」を掲載しています。ぜひ併せてお読みください。


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ベトナムの底力(全13回)

押し寄せるインドのITパワー(全10回)

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