やむなく私は,DBMSのバージョンアップ以外の方式を考えることにした。

 最初に相談した中で,唯一バージョンアップをしなくても済む案を提示してくれた人がいた。その案とは,新国際システムと情報系の間に,中間のDBサーバーを構築し,“二段階レプリケーション”をするというものだった(図1)。

図1●二段階レプリケーションの構成
図1●二段階レプリケーションの構成

 新国際システムのDBMSと中間サーバーのDBMSはレプリケーションが可能である。中間サーバーのDBMSと情報系のDBMSもレプリケーションが可能だ。よって,二段階でレプリケーションを実現できるという目算である。基幹系と情景系のDBMSとそれぞれレプリケーションできるDBMSがあったのだ。

 なるほど,バージョンアップは不要である。新国際システムに対する制約にも抵触しない。これなら何とか要件を満たせるかもしれない。

崩れる“二段階レプリケーション”

 ところが,この案には致命的な欠点があった。500Gバイトというデータ量を格納するために,新たなDBサーバーを構築する必要がある。そうなると,システム自体が小規模とは言えないものになる。構築にはそれなりの手間とコストを覚悟しなければならない。

 コスト面の要件は聞いていないが,問題になることは間違いない。このDBサーバーをどの部門が構築/運用するのかも問題となる。新国際システムの担当が構築/運用を手掛けるとは考えにくい。販売企画部門にとっても大きな負担になるだろう。

 私はこの案を第一案としてお客様に提示することを避けたかった。むしろ「バージョンアップができないので,このような構成にするしかありません。であれば,やはりバージョンアップをしましょう」と,バージョンアップをあくまで推奨するための材料にしかならないと思っていた。

「情報系の妥協」を第三の案に

 第三の案もあった。情報系側のDBMSのバージョンを,新国際システムとレプリケーションが可能なものに下げるものだ。情報系システムはこれから構築するものであり,まだソフトウエアを購入していない。そのような段階なら不可能な案とは言い切れない。

 しかし,新国際システムとレプリケーションが可能なバージョンは,情報系で計画していたものより2世代も古い。サポートが切れるのもそう遠くはないだろう。これから構築するシステムで,あえて古いバージョンのDBMSを提案するのは厳しい。

 さらに,古いDBMSでサービスを開始できても,情報系のDBMSは新国際システムのDBMSがバージョンアップされるまで,バージョンアップできないことになる。第三の案も除外すべきか…。

 基幹系に手を入れることはできない。だとしたら妥協するのは情報系側となる。情報系のDBMSを基幹系とレプリケーション可能な製品に変更するしかないのか。私は完全に煮詰まっていた。


宮治 徹(みやじ とおる)
日本IBM アプリケーション・サービス シニアITアーキテクト
1988年に日本IBM入社。主として通信メディア系の大規模SIプロジェクトのSEを歴任。現在はインフォメーション・マネージメント部に所属し,データベース関連を中心としたアーキテクト活動を手掛けている。