「新国際システムの情報系を構築したいんだ。どうやればよいのか一週間ぐらいで考えてくれないか」――。その大きな案件は,前触れもなくやってきた。今から数年前のことである。

 「新国際システム」とは,顧客であるA社の大規模基幹システムである。顧客や契約といった重要な情報を管理しているメインフレームで構築したものだ。話を持ちかけてくれたA社システム部の福田課長(仮名)は,この基幹システムと連携する情報系システムを構築したいようだ。相当な大規模プロジェクトとなる可能性がある。しかも同システムは,サービス開始から数年がたち,ようやく安定稼働したところ。そんな重要な話を,単なる一担当者であった私に,最初に相談してくれたのである。

こんなの簡単!?

 福田課長と話をすると,その全容が見えてきた。この情報系システムは,新国際システムと直接関係のない販売企画部門で検討されたものだった。システム部に所属する福田課長は,販売企画部門から依頼されたようだ。その要望は,新国際システムに情報系の機能を追加するのではなく,販売企画部門の情報系システムとして新たにシステムを構築するものだった。そのデータとして新国際システムの顧客情報の一部が欲しかったのだ。さらに話を聞くと,ある程度具体的なところまで検討が進んでいることも分かった。以下はその主な要件である。

  1. 情報系のDBMSはOracle Database 10gの最新バージョンを使用する
  2. 1000種類以上ある基幹系DBのうち,情報系では約20を使う
  3. 20種類のDBは大規模なものが中心であり,データ容量は合計500Gバイト
  4. 新国際システムの最新データではなく,バッチ処理終了時(早朝)の静止点データを使う
  5. 情報系のサービス提供時間帯は8~22時とする
  6. 基幹系のバッチ処理結果が朝8時までに反映されるのがベスト。無理な場合は翌朝8時(1日遅れ)の反映でもよい

 これだけ見ると,無理な要件はほとんどない。そこで私は,まず図1のような,ごく一般的なレプリケーション構成でいけると考えた。

図1●当初考えたレプリケーション構成
図1●当初考えたレプリケーション構成

 「思ったより簡単じゃないか」――。そう思って安どしたその数時間後,大きな問題が判明した。

 新国際システムのDBMS(DB2 for OS/390 V.5.1)はバージョンが古く,情報系で利用するDBMSの最新バージョンとレプリケーションができなかったのだ。「待てょ」。これは私がWebサイトの製品情報から確認したものだったので,念のため製品担当者に真偽を確認した。結果は,やはりできなかった。

 そこで,何人かの経験者や専門家に解決策がないかどうかを相談した。だがやはり基幹系のDBMSのバージョンアップするべきとの回答ばかりだった。

 どうしたものか。


宮治 徹(みやじ とおる)
日本IBM アプリケーション・サービス シニアITアーキテクト
1988年に日本IBM入社。主として通信メディア系の大規模SIプロジェクトのSEを歴任。現在はインフォメーション・マネージメント部に所属し,データベース関連を中心としたアーキテクト活動を手掛けている。