夜なかなか寝付けない──。ITエンジニアには,この悩みを持つ方が少なくないでしょう。寝付きが悪いと,翌朝起きるのが辛いうえに,寝不足で昼間の差し障りが出ますから,知的労働者であるITエンジニアにとっては大問題です。

 寝付きの悪さを解消する方法を考えるとき,自分に合った布団や枕,睡眠薬の服用など,眠るときの環境や行為に目が向きがちです。しかしもっと重要なことがあります。それは,昼間の過ごし方です。

 昼間の過ごし方で特に大切なのは,太陽の光に良く当たることです。真昼の強い日差しなら,10分間でも構いません。逆に室内照明では,何時間浴びても不十分です。人は太陽の光を受けると,脳の松果体からのメラトニンの分泌が抑制されます。メラトニンは睡眠を促すホルモンで,昼間に抑制された分だけ,夜間に多く分泌されます。ですから昼休みぐらいは,室内照明しかないオフィスから明るい太陽の下へ飛び出して下さい。

 もう一つ,昼間の過ごし方で重要なのは,大いに考えて脳を酷使することです。この脳の疲れが,夜に睡眠を引き起こすのです。

 これらのことをはじめとする,夜うまく睡眠を取るための昼間の過ごし方を,表1にまとめてみました。不眠で悩んでいる人は,表1を基に,改めてご自身の昼間の生活リズムを検討してみてください。

表1●夜の寝付きを良くする昼間の過ごし方
太陽によく当たる
大いに脳を酷使する
集中して労働生産性を上げる。
ちょこまかと,身体を努めて動かす
楽しいことをなるべく多く見つける
昼寝を20~30分以内に抑える

 ここからは余談です。先日,知人のITエンジニアから「外資系のIT関連企業のヘッドハンターから突然電話がかかってきて実際に会った」という話を聞きました。その知人は,ヘッドハンターから「ヘッドハントの対象になる人の条件は,専門性,実績,そして人間性が優れていることだ」と言われたそうです。最終的に転職を断ったのですが,「仕事振りが高く評価されていると知って,それ以来不眠は吹っ飛んだ」とのこと。仕事への自信も,不眠を治す妙薬となるようです。

 次回は,昼寝の功罪についてお話しします。

田村 康二(たむら こうじ)
立川メディカルセンター(新潟県・長岡市)常勤顧問 田村 康二氏 医師,医学博士。立川メディカルセンター(新潟県・長岡市)常勤顧問。内科,循環器病,時間医学などが専門で,著書に「生体リズム健康法」(文藝春秋社),「健康安心ノート」(和泉書房)などがある