最近,メーカーと携帯電話事業者に閉じていた開発環境に変化の兆しが見え始めている。従来型の携帯電話を提供してきたメーカーや事業者が協力し,共通のプラットフォームを作る動きが出てきたのだ。統一したプラットフォームが多数の端末で使われれば,サードパーティを集める力になる。その動きはSymbian OSとLinuxで起こっている。

 Symbian OSでの動きは,並存するミドルウエアの統一である。現在,Symbian OS上で動作するミドルウエアにはNTTドコモのMoap-Sのほか,フィンランドノキアの「S60」,フィンランドUIQの「UIQ」が存在する。Moap-SはNTTドコモ用端末専用,S60は主にノキアの端末,UIQは米モトローラやソニー・エリクソンの端末の一部の端末で利用されている。これらは実は「機能的に似通った部分が多い」(日本シンビアンの久晴彦社長)。

 そこで,「三つのミドルウエアで共通化できるところを同じにしていく話し合いが始まっている」(同)という。合意時期は不透明だが,将来的に三つのミドルウエアは統合しそうだ。

Linux開発環境の共通化を狙う

 Linuxの共通化では大きく二つの陣営がある(図6)。一つは携帯電話関連の大手6社で2007年1月に旗揚げした携帯電話開発プラットフォーム規格化団体「LiMo Foundation」である。NTTドコモ,米モトローラ,NEC,パナソニック モバイルコミュニケーションズ,韓国サムスン電子,英ボーダフォンが名を連ねる。

図1●接近するLiMoとLiPS
図1●接近するLiMoとLiPS
LiMoを開発の中心に据えるNTTドコモ陣営とACCESSがプラットフォーム開発で提携し,事実上ACCESSはLiMo陣営に入る形になった。

 LiMoの狙いは,膨大になったソフトウエアの開発費用を通信事業者やメーカーの枠を超えて分散させることである。OSにLinuxを使い,携帯電話に必要なミドルウエアなどを参加企業が共同で開発することで,コストを最小化する。

 もう一つの陣営は,携帯電話向けLinuxプラットフォームを開発する団体「LiPS」(Linux Phone Standard)である。ACCESSや仏フランス・テレコム,伊テレコム・イタリアなどが加盟する。LiPSの狙いもLiMoと同じである。

LiMoとLiPSは事実上融合へ

 別々で標準化を実施しているもののLiMoとLiPSは共通するところが多い。そこで,この二つが合流する動きが出てきている。

 2007年12月にLiPSの幹事企業の一つであるACCESSがNEC,NTTドコモ,パナソニック モバイルコミュニケーションズと提携を発表した。ACCESSがNTTドコモのミドルウエアであるMoap-Lをベースとした開発環境を提供する。これはACCESSが事実上LiMo陣営に入ったことを意味する。というのも,NTTドコモは「LiMoで決定したことは,Moap-Lに取り込む」(移動機開発部ソフトウエアプラットフォーム開発担当の照沼和明担当部長)方針だからである。ACCESS以外に強力なソフト・ベンダーがいないことから,LiPSがLiMoに吸収される形になりそうだ。

 *記事執筆後,2008年2月にLiPSの主要メンバーであるACCESSとオレンジ(フランステレコム)がLiMoに参加するという発表があった(関連記事)。

 AndroidもLinuxを使ったプラットフォームだが,これがLiMo,LiPSと融合する動きは現時点ではない。専門家は「LiMoやLiSPとは根本的に異なる技術。一緒にするのは難しい」と見る。

 ただし,メーカーや事業者はAndroidのアプリケーションをLiMo上で動作させる解決法があると考えている。Androidは独自のJava仮想マシンを搭載し,基本的にアプリケーションはこの上で動作する。「この仮想マシンだけをLiMoの携帯電話に移植して,Androidのアプリケーションを動かす」(NTTドコモの三木常務理事)という手法だ。

ハードの差異も将来的には消える

 先に述べたように,OSとミドルウエアを統一しても,ハードウエアが一致しないと,アプリケーションの互換性に支障を来す危険がある。

 ここについては「インタフェースを統一する機運にはなっていない」(パナソニック モバイルコミュニケーションズの岡田所長)という。ただし,問題は時間とともに解決していきそうだ。

 最大の理由はこれからCPUの高速化が見込まれていることにある。今後は省電力化技術や電池容量の増加,マルチコア化によってCPUの処理能力が飛躍的に向上する。そうなれば「差異はソフトウエアで吸収できるようになる」(パナソニック モバイルの岡田所長)。

 携帯電話に搭載する各種チップがワンチップ化に向かっているのも,インタフェースの差異を減らすのを後押しする。例えば,ルネサステクノロジが「SH-Mobile」を提供するほか,クアルコムが「MSM」,米テキサス・インスツルメンツが「OMAP」という名称で携帯電話の統合チップを提供している。

 統合チップには,グラフィックスの機能,メモリーやカメラのコントロール回路などが入っている。従来の複数のチップを使う場合と比べて,チップの組み合わせの数が激減する。競争によってメーカーの数が絞られれば,「おのずと標準のハードウエア・プラットフォームが生まれてくる」(携帯電話開発者)というわけだ。

■変更履歴
当初,ノキアの携帯電話開発プラットフォーム,S60をノキア端末専用としておりましたが S60はノキア製以外の端末に対してもライセンスされています。このため,「S60は主にノキア端末で使われる」という表現に直しました。本文は修正済みです。[2008/03/14 16:30]