iPhone,Android,従来の携帯電話に使われてきたSymbian OSやLinuxベースのプラットフォーム──。どのプラットフォームが今後,生き残っていくかは,システム・インテグレータ,ソフトウエア開発者だけでなくユーザーも無関心ではいられない問題だ。現在はまだ本格化していないが,将来携帯電話を業務システムに組み込むようになれば,どれを選ぶかがビジネスの継続性を大きく左右する。

 携帯電話のプラットフォームの未来を占う上で参考になるのが,パソコンの歴史である。ビジネスでパソコンが使われるようになってきたのは1980年代前半のこと。NECや富士通,OKI(沖電気工業),日立製作所などがメーカー個別のプラットフォームでパソコンを作っていた。相互に互換性がなく,アプリケーションはそれぞれの機種ごとに作る必要があった。今の携帯電話はまさにこの状況にある(図1)。

図1●携帯電話のプラットフォームの現状と将来
図1●携帯電話のプラットフォームの現状と将来
多数のOS,ハードウエアが乱立する1980年代後半のパソコン業界と非常に似ている。今後携帯電話のプラットフォームも,競争によって統一に向かうと予測できる。
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サードパーティの囲い込みが重要

 1980年後半にはNECのPC-9801が全盛時代を迎える。サードパーティのアプリケーション・ベンダーを味方に付けたことが奏功したのだ。アプリケーションが豊富にあることでPC-9801プラットフォームの魅力が上がる。これが消費者によるPC-9801の購入を誘い,さらにその市場を狙ってサードパーティがアプリケーションを作るというプラスの循環が生まれた。

 その後,米国でデファクト・スタンダードとなっていたPC AT互換機が大量のサードパーティ・アプリケーションとともに,日本に上陸。NECの牙城を崩し,これが現在まで続いている。

 つまり今後の携帯電話のプラットフォームの興隆を考えるとき,サードパーティの支持をどれだけ集め,魅力的なアプリケーションを作ってもらえるものかがキー・ポイントとなる。

遅れる日本の事業者とメーカー

 米アップルと米グーグルはサードパーティを集めるための手を着々と打っている。アップルは前述したように,アプリケーション開発キットの提供を2月に始める。iPhoneは既に多くの国で受け入れられており,多数のサードパーティが集まるだろうと予想される。

 グーグルは携帯電話開発に必要なソフトウエアすべてを無償で提供し,これを搭載した端末が各種メーカーから登場するのを促すことで,携帯電話の標準プラットフォームの地位を狙う。Android搭載の端末が広く浸透すれば,サードパーティが付いてくるのは間違いない。

 日本の携帯電話関連の企業はこの新しい波に乗り遅れている。開発環境は,限定した組織にだけしかオープンにしていない。そのうえ,プラットフォームが通信事業者やメーカーごとにバラバラで,アプリケーションの可搬性がほとんどない。このため,サードパーティはアプリケーションを提供しようと思っても,メーカーや事業者ごとに開発環境を手に入れてカスタマイズしなければならない。

ハードの違いでカスタマイズが発生

 NTTドコモの端末では,Symbian OS系の「Moap-S」とLinux系の「Moap-L」という開発プラットフォームが使われている(図2)。メーカーごとにプラットフォームを選んでいるのが現状で,Moap-Sを富士通,三菱電機,シャープ,ソニー・エリクソンが,Moap-LをNECとパナソニックモバイルコミュニケーションズが採用している。OSが異なるため,両者の間にはアプリケーションの互換性はない。

図2●主な携帯電話プラットフォーム
図2●主な携帯電話プラットフォーム
プラットフォームを共通化するための,グループ化が進んでいる。
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 さらに厄介なことに,同じ開発環境であっても,携帯電話のメーカーやモデルごとに,可搬性がないケースがある。周辺機器のインタフェースに差異があるからだ(図3)。

図3●携帯電話開発の問題点
図3●携帯電話開発の問題点
ハードウエアを構成するチップやデバイスがメーカー/モデルごとに異なるため,組み合わせが非常に多くなる。このため,それぞれのハードウエアの組み合わせに対して,ソフトウエアの微調整が必要となり,開発に手間と時間がかかる。
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 一般にパソコン向けのOSの場合,周辺機器インタフェースの差異があっても,ドライバがこの差を吸収する。しかし,「携帯電話の場合OSが軽量に作られているため,この差を吸収できずOSの上位にその差異が現れてしまう」(富士通ビー・エス・シー エンベデッドシステム本部副本部長の廣澤満治取締役)。この問題を解消するにはミドルウエアやアプリケーションで差異を吸収しなければならない。

 KDDIの端末では,「KCP」や「KCP+」と呼ばれる共通開発プラットフォームが用意されている。米クアルコムのチップを全端末で使うためNTTドコモのような問題は起こりにくい。とはいえ,アプリケーションの可搬性が高いのは,KDDIの端末間に限られる。グローバルに開発者を呼び込むには物足りない。

 ソフトバンクモバイルは「POP-i」(ポパイ)と呼ぶ共通開発基盤を整備中。こちらも,携帯電話事業者に閉じた仕様となっている。