本番では,状況が分刻みで刻々と変化する。情報を集めて周知するだけでなく,影響範囲を素早く正確に追跡・確認しなければならない。NECの小川真示氏(第一OMCS事業部 事業部長 上席プロジェクトオーガナイザ)は,影響範囲を素早く正確に見極められるように,プロジェクト管理ツール「Microsoft Project」を利用した。
ある通信業者のシステムを段階移行したときのこと。1回の移行に使える時間は最大6時間という制約があった。タスクの実行中にトラブルが生じても制限時間内に解決して移行を完了しなければならなかった。タイム・チャートの要所要所にあらかじめ予備時間を設けてはいたが,もしトラブルが生じたとして予備時間で解決できるかは不透明。前倒し可能なタスクはできるだけ前倒ししてリスク軽減を図りたい。
だが,各タスクは複雑に絡み合っている。安易に前倒しすると後工程で整合性が取れなくなり,かえってトラブルを誘発しかねない。
そこで小川氏は,影響範囲を素早く正確に把握する仕掛けを考えた。移行本部に作業管理の専任担当者2人を常駐させ,前倒しできるタスクかどうかの判定に当たってもらう。タスクの依存関係はMicrosoft Projectで管理し,移行本部に設置したプロジェクタで画面をスクリーンに投影した。
業務担当者に経験を語ってもらう
システム移行の当事者は,システム担当者だけではない。そのシステムを利用する業務担当者も,移行作業の一端を担う。彼らがどのような形で本番当日の作業に参画するかは,見過ごされがちだが重要である。
ショッピングセンター,ルミネの栗山真幸氏(総合企画部 システム担当)は,店舗ごとに営業管理システムを段階移行する際,移行を経験した業務担当者のノウハウを次に生かすための場を用意した。ルミネ・グループ内で業務上のノウハウ共有に積極的だった横浜店を最初の移行店舗に指定。移行を担当した女性スタッフ2人に,実際に経験した移行の流れや苦労・注意点などを他の店舗のメンバーの前で発表してもらった(図1)。埋もれてしまいがちな業務担当者の移行ノウハウを掘り起こすことができた。
図1●業務担当者を巻き込んで業務移行を円滑化する ルミネの栗山真幸氏は,11ある店舗に段階移行で営業管理システムを導入したが,業務の本番移行を円滑にするために業務担当者を巻き込むことにした。最初に移行を完了した横浜店の業務担当者に協力してもらい,他店の業務担当者に移行作業の実情や苦労談などのノウハウを発表してもらった |
2人は「ルミネに出店するショップに説明するときに使った資料の書き方」「閉店時に施錠するショップへの根回し術」「事前研修に殺到するショップ店員の心理状況」など,生々しい業務移行のポイントを多く語った。「自社レジを締められずに苦労したので,自社レジ用の研修を増やしてほしい」といった移行本部に対するリクエストもその場で挙げられた。他店の移行担当者らは,食い入るように聞き入った。
業務担当者に対するサポートも忘れてはならない。ルミネの移行当日には,システム構築と運用を担当したNECネクサソリューションズの担当者らが店舗の各フロアに張り付いた。業務移行のヘルプデスク役となるためだ。
クレジットカード端末の入れ替えに伴う操作方法の変化などは,記憶が薄れないよう本番の1~2週間前に引きつけて研修済み。クレジット照会用の疑似サーバーまで構築し,実機を使って1時間半の研修を1日に3~4回は開催した。しかしいざ本番となれば,業務担当者は日ごろの業務手順で動いてしまいがち。そうした混乱を防ぐためのヘルプデスク役だった。
|