現行システムの陳腐化,メインフレームからのマイグレーション,BPR(Business Process Reengineering)に伴う機能拡張・改変,企業合併に伴うシステム統合――。

 理由は様々だが「最近ではシステムをまっさらな状態から新規構築するよりも,もっぱら再構築する機会の方が多くなっている」(システム・コンサルタントのプロバインズ ITサービスマネジメントスペシャリスト 草苅徹氏)のが実情だ。

 その再構築で欠かせない作業が「システム移行」。新システムが完成してサービスを開始する直前に越えなければならない「最後の難関」である。現行システムから引き継ぐべきデータやネットワーク,クライアントを新システムに移し替え,新システムに基づく業務に切り替える。

移行関連で全工数の35~40%

 単純なサーバー・マシンのリプレースなどは別として,システム移行には新システム構築に匹敵する工数がかかる。みずほ情報総研は基幹システムをSAP R/3で再構築する際にかかる工数を工程別に概算した(図1)。その割合を見ると,移行関連の工数がいかに大きなウェートを占めているかが分かる。

図1●SAP R/3再構築の全工数に占める移行関連工数の割合(みずほ情報総研の概算)
図1●SAP R/3再構築の全工数に占める移行関連工数の割合(みずほ情報総研の概算)

 上記グラフの通り,移行の要件定義・開発(20%)とリハーサル(15~20%)を合算した移行関連の工数だけで,「全体の35~40%に達する」(法人ソリューション第3部 第1チーム システムコンサルタント 井上和行氏)。この数値は,新システムの要件定義・開発(40%)とテスト(10~15%)を合算した50~55%と大差ない。これだけの工数がかかる工程に対して「移行はシステム構築の後で考えれば十分」などといった認識では甘すぎる。RFP(システム提案依頼書)やシステム提案書の段階から意識すべきである。

 ではなぜ,移行にはこれほど工数がかさむのか。それは,移行の難易度の高さに起因する。移行の難易度を上げる理由は大きく五つある(図2)。


図2●移行を難しくする主な理由
図2●移行を難しくする主な理由
システム再構築に伴う移行には,新規構築にはない要因があるため,難易度が上がる

 (1)法改正や保守サポート期限切れに伴い現行システムの寿命が尽きてしまうなど「時間が限られている」こと,(2)時間の制限ゆえに基本は「一発勝負で待ったなし」になること,(3)現行システムで蓄積した「膨大なデータを引き継ぐ」こと,(4)現行システムの開発者まで含む「多数の人とタスクが複雑に絡む」こと,(5)システムと業務の両面で「新旧両仕様の理解が求められる」こと,である。この五つは,システムの新規構築ではあまり考えずに済む,移行ならではの特性と言える。