こうした新しい端末に対して日本の携帯電話事業者は好意的な反応を見せた。

 iPhoneの採用に関しては,NTTドコモが株主総会の席で「可能であればドコモが提供したい」(辻村清行取締役常務執行役員)と発言するなど前向きな姿勢を示している。ソフトバンクモバイルも採用に向け積極的に動いているといううわさも聞こえている。

 Androidに関しては,NTTドコモとKDDIがAndroidの支援組織であるOHA(Open Handset Alliance)に設立メンバーとして参加している。現時点では両社とも「端末の提供計画などは白紙」(NTTドコモ移動機開発部長の三木俊雄常務理事)とするものの,Android端末の提供を真剣に検討しているのは間違いない。

 KDDIの小野寺正社長兼会長はAndroidに対して積極的に動く理由を「ユーザーの中に自己責任で自由にカスタマイズできるオープンな端末を望む声があるのを感じているからだ」と説明する。

制約の多いJava,BREWアプリ

 もちろん,iPhoneやAndroidの登場を待つまでもなく,日本のこれまでの携帯電話でも,ある程度なら自分好みのソフトウエアを利用できた。それがJavaBREWを使ったアプリケーションである。

 ただ,どちらの実行環境もiPhoneやAndroidに比べて技術的,制度的な制約があり,開発者からの評判が芳しくない。JavaとBREWの携帯電話での実行環境が提供されてから久しいが,企業ユーザーにとって魅力的なアプリケーションはほとんど登場していない。主に提供されているのはゲームや株価チェック用のアプリケーションなどだ。

 Javaでの最大の制約は,携帯電話にあらかじめ搭載されている機能の中で使えるものが少ないという点だ。企業システムを構築する開発者からは「企業のグループウエアにあるスケジュールを携帯電話のものと連動させ,約束に遅れないようにアラームで知らせるなどの応用が考えられるが,アプリを気軽に作ることを許していない」(ネオジャパンの齋藤晶議社長),「訪問先リストに載っている住所とGPSで取得した現在地から最短ルートを調べる営業支援ツールを作りたいが現状の仕様では無理」(TIS事業統括本部産業第3事業部産業システム第6部の岡部耕一郎主査)という不満の声が上がる。

 BREWは開発上の制限はJavaよりも少ないが,開発のためにKDDIと交渉し,許可が下りなければアプリケーションを作れない。アプリケーション作成後は,その安全性を調査するKDDIの審査を受ける必要がある。これが結果として開発者を絞る結果になっている。

従来型とオープン型は並存

 自由にカスタマイズできる“オープンな”端末と,制限のある従来型の携帯電話。この二つの形態に対して,携帯電話事業者は「オープンと従来の携帯電話は並存する」(KDDIの小野寺社長)という見方を示す。

 従来型の携帯電話は自由度が少ない分,大多数の人が必要な機能を過不足なく備えている。「携帯電話ユーザーの多数は電話とメールだけが使えれば良いという人が占める」(パナソニックモバイルコミュニケーションズ商品開発第二センターの岡田憲武所長)。電話とメールの利用を主とするユーザーにとって見れば,今の端末で十分だ。さらに,現行の携帯電話をおサイフケータイやクレジットカード機能などコミュニケーション以外の目的で使っているユーザーもいる。こうした機能は,「携帯電話事業者がコントロールした方がうまくいく」(小野寺社長)ため,簡単にはオープンな端末に入ってこない。