リハーサルでのチェック対象を明らかにしたうえで,どこまでチェックすべきかを考えたい。基本的には,本番と同等の緊張感を持って取り組むべきだ。「リハーサルだから,これで十分だろう」――そうしてチェックが甘くなったときに,本番でトラブルになる。

全件データを使う

 2社合併で誕生したある製造業者の基幹システム統合を担当した富士通の島津氏は,本番後に移行前後のデータを突き合わせて検査(突合検査)したところ,一部のデータに誤変換があることに気づいた(図1下)。

図1●本番と同様の全件データ移行をリハーサルで実施したい
図1●本番と同様の全件データ移行をリハーサルで実施したい
ある製造業者では,企業合併に伴う基幹システム統合で全件データを本番移行したところ,データの誤変換が生じた。原因は,抽出データを使った4回のリハーサルには含まれなかった例外的な取引パターンが本番の全件データに含まれていたこと。この例外パターンは業務担当者も把握しておらず,移行ツールの変換要件に盛り込まれていなかった。このような例外パターンは,リハーサル段階で最新データによる全件データ移行を何度か試みないと見つけにくい
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 島津氏は,事前に4回のリハーサルを経て本番に臨んでいたが,リハーサルで使用したデータはいずれも抽出データだった(図1上)。本番で移行した全件データに,抽出データには含まれていなかった例外的な取引パターンがたまたま含まれており,誤変換を引き起こしたのだった。

 実は統合した基幹システムの一方は構築後30年以上経過した古いもので,システム面でも業務面でも,仕様を完全に把握している担当者はいなかった。誤変換を招いた例外的な取引パターンも業務担当者は把握しておらず,移行ツールの仕様からは漏れていた。

 移行データの容量が膨大な場合,主要データや抽出データでリハーサルすることはよくある。全種・全件データでリハーサルすると,時間と手間がかかりすぎるからだ。だが,主要・抽出データで済ませてよいのは,現行システムと新システムの両仕様に通じたエンジニアがいる場合だけと考えるべきだ。そうでない場合は,主要・抽出データによるリハーサルだけでなく,本番と同じく全種・全件データによるリハーサルを何度か繰り返さないと,こうしたトラブルは防げない。

弁当の発注にまでこだわる

 本番と同じにするのは,データだけに限らない。ベテラン・エンジニアともなれば,リハーサルの臨場感を高めるために,かなり細かな点まで気を配っている。

 NECの小川氏は,リハーサルでも本番と同様に,2人1組をチームとしたダブル・チェック体制を徹底するようにしている。1人が移行手順書の記述通りに声を出して確認し,操作・入力する。それをもう1人に確認・了解してもらったうえで,[Enter]キーを押すなど実行に踏み切る。こうした作業習慣は,リハーサルから身に付けておかないと,本番時に付け焼き刃で厳守しようとしても限界がある。

 ほかにも,「(食事の時間にも配慮するため)本番と同じように弁当を手配する」(野村総合研究所 証券システムサービス開発一部 上席システムエンジニア 牧野竜史氏)とか,「昼間作業も夜間作業も本番と同じ時間帯にリハーサルする」(NEC OMCS事業本部 統括マネージャー 中出勝宏氏)などの徹底ぶりだ。本番作業の習熟度を上げるには,ここまでやるのだ。