プロジェクトを進める上で必ず起こる問題は,担当者間,チーム間の「コンフリクト(対立)」である。特に,アプリケーションの担当者(チーム)とインフラ担当者(チーム)の間では,経験上,どんな現場でもコンフリクトを起こす。最悪の場合,プロジェクトの成否にかかわる問題に発展する。主な原因は3つ。そのそれぞれについて,PMOがどう対処すべきかを考えてみたい。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP


 プロジェクトを進めるに当たって,現場で必ずといっていいほど出てくるコンフリクトと言えば,「インフラ(システム基盤)」と「アプリケーション担当者」の対立ではないでしょうか。特に最近のプロジェクトでは,さまざまな技術を組み合わせてシステムを開発するため,インフラ部分は技術系の専門チーム,あるいはほかの開発ベンダーが担当するケースが多いと思います。

 PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)としては,当然,アプリ・チームとインフラ・チームをうまく調整しながらプロジェクトを進めていかなければなりません。しかし,対立する原因がよく分からなければ,適切な対処はできません。私の経験上,アプリ・チームとインフラ・チームが対立する原因は,大きく分けて以下の3点にあると考えています。


(1)お互いがインフラ(アプリ)のことを知らない
(2)プロジェクトの成功よりも自分の組織の成功を最優先に考える
(3)「相手が決めてくれないと自分の作業が進まない」という理屈が横行する

 なかなか根が深い問題です。このような対立が最もよく出る性能問題を例に,PMOとしての対処の仕方を考えてみましょう。

チーム間の協力を,自主性に任せず「仕組み」として整備する

 まずは,『お互いがインフラ(アプリ)のことを知らない』という問題について。現在プロジェクトマネジャとして活躍されている方の大部分は,アプリケーションかインフラのどちらかのチームで,チームリーダー,プロジェクトリーダーを経てプロジェクトマネジャになった方ばかりだと思います。アプリケーションとインフラの両方のチームリーダーを経験したという方は,最近では少数派です。

 IT業界の最近の傾向として,チームリーダーになるころから,将来アプリケーション・エンジニアを目指すのか,テクニカルなインフラ系エンジニアを目指すのか,キャリアパスを決めてしまいます。また,大きな会社ともなると,そもそもインフラ系とアプリ系で組織自体が別々になっています。エンジニアとしての専門性を高めるための施策としては当然ですが,インフラ・チームとアプリ・チームの間にコンフリクトを生む下地にもなっています。

 かなりベテランのプロジェクトマネジャの話を聞くと,昔はプロジェクトにおいてアプリやインフラという区別そのものがなく,なんでも自分でやっていたとよく聞きます。そういう意味で,以前と比べてお互いを理解しづらくなっているのは納得がいきます。

 しかし,当たり前の話ですが,アプリかインフラの片方だけでシステムを開発することはできません。アプリとインフラがそろって,初めてシステムとしての価値があるのです。それを担当する人と人の間にも,「協働して価値を生む」という意識が必要なわけですが,残念ながら現実は厳しい状況にあります。

 例えば性能問題が生じたき,どのようなコンフリクトが生じるでしょうか。原因が特定されるまでの間,アプリ側は「データベース(DB)のパラメータ設定など,インフラ側がおかしいのではないか」と考えます。一方のインフラ側としては,「アプリ側のSQLやロジックの組み方が悪いのではないか」と考えるでしょう。大抵の場合,双方に問題がある場合が多いのですが,こんな責任転嫁がよく起こります。