NTTドコモの西川清二・執行役員情報システム部長
NTTドコモの西川清二・執行役員情報システム部長

 5300万人を超す利用者を抱える携帯電話サービス最大手のNTTドコモ。主な基幹システムとして、経営管理システム「DREAMS」、顧客管理システム「ALADIN」、料金システム「MoBills」の3つがある。どのシステムも規模の大きさや機能の先進性によって、稼働当時にIT業界で大いに話題となってきた。

 西川清二 執行役員は、3つのシステムの開発に深く携わってきたIT(情報技術)のプロだ。ただし、かつては無線通信インフラの専門家だったので、基幹システムの開発に初めて携わった際、「絶対に止められない、絶対にデータを失えない、などといったシステムの信頼性についての重要度の違いに、大きな衝撃を受けた」という。

 NTTドコモが2002年4月に稼働させたDREAMSは、社員がスケジューラに予定を書き込むと同時に交通費が自動計上されるなど、業務と経費の流れをほぼリアルタイムで把握できるようにした。ALADINは店頭での契約業務を支援。MoBillsは料金計算処理や請求・収納などの料金業務を担う。

 「もはや当社の企業活動はIT無しでは何もできない。かつては人手を介する業務がたくさんあったが、今はほぼITで自動化された。従って、システムの機能追加や機能変更をいかに早く安くできるかが、経営としての勝負になる」と西川執行役員は気を引き締める。

 例えば2007年6月に稼働させた新しいMoBillsでは、既存の料金プランや割引サービスの内容を改訂したい時、パラメータをちょっといじるだけで済むようになった。携帯電話の割賦販売方式の仕組み作りには3カ月かかったが、もしも古いMoBillsを使っていたら倍以上の期間がかかり、費用も膨大だったという。

 今やすべての戦略にシステムが絡むので、社長が出席する各種の戦略会議には必ず西川執行役員も参加する。必然的に、社長と直接対話をする頻度も高い。

 NTTドコモの情報システム部では現在、4本柱から成る中期計画を実践している。1つ目の柱は「システムの安定稼働の推進と新サービスの効果的な提供」である。西川執行役員は「これが一番重要だ」と言い切る。システムは作りっぱなしでは駄目で、カットオーバーした後の安定化、定着化、活用推進まで、作ったシステムが存在する限りはきっちりと面倒を見る。新規加入者が少なくなった今、携帯電話サービスの競争は既存顧客の満足度向上の戦いの様相を深めているため、なおさらである。

 2つ目の柱は「ITを使った業務改善の実施」だ。NTTドコモは現在とても大規模な企業に成長し、組織が細分化されている。こうした状況では、組織間をまたがるような業務改善提案が出にくくなる。「そもそも業務改善とは、必要な情報を効率よく流通させ、活用・共有できるようにすること。だから、全社の情報の流れを把握している情報システム部門が中心となり、現場の業務改善を促す提案をしていくべきなのだ」と西川執行役員は指摘する。

 3つ目の柱は「データ活用支援による経営戦略策定への貢献」。DREAMSなどを構築したことによって、たくさんの情報をデータ・ウエアハウスに蓄積できるようになった。だが、情報は活用しなければ意味がない。そこで2003年4月、情報システム部の中に「情報戦略担当」というチームを作った。事業部門に情報の使い方を提案したり、事業部門からの問い合わせに対して「こうしたデータならすぐ用意できます」といった対応をする。

 最後の4番目の柱は「セキュリティーの強化」である。ISMS(情報セキュリティーマネジメントシステム)の継続的な運用を徹底している。「これら4本の柱は、現在の中期計画のためだけのものではなく、会社の経営方針がどんなふうに変わったとしても普遍だ」と西川執行役員の視線は既に5年、10年先に向けられている。

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