by Gartner
ダイヤン・モレロ VP兼ガートナー・フェロー
アンディ・カイト VP兼ガートナー・フェロー
山野井 聡 リサーチ グループVP

 ITとビジネスの両方を理解する人材の不足が深刻な問題になってきている。それが,ビジネスの成長を脅かしつつあるのだ。従来型の技術的なITスキルだけでは,ITとビジネスの両方を発展させたいという企業の要求に応えられない。さまざまな要因から人材の奪い合いが起こっている。人材不足という新しい現実に合わせて,企業は計画を立てなければならない。

 「資格を持った人」の定義が変わるということだ。ビジネス・モデルとITをつなぎ合わせるには,多様な経験と,プロとしての多彩な才能,複数の学問的な知識,技術への理解を持った“ハイブリッド”な人材が必要になる。現在は,そうした人材が圧倒的に不足している。

 現在の人材不足は,1990年代の終わりから2000年代の初めに起こった,ドットコム・ブーム期のものとは大きく異なる。当時は,特定の技術的なスキルや,特定領域の経験を持った人材が不足していた。現在は対照的に,より一般的な能力と経験,ビジネス上の洞察力を持った人材が足りない。ビジネス・プロセスと技術の両方を理解し,マネージすることに焦点が当たっている。そのスキルを磨くのには時間がかかる。

 ITとビジネスの両方を理解する人材へのニーズは,3つの要因で高まっている。

 第1にガートナーのヒアリングによれば,ほとんどの大企業は多様な変革プログラムのまっただなかにあり,そのためにITがカギになるとみている。第2に大企業は,グローバル化や顧客への集中,イノベーション,バリュー・チェーンの拡大,ブランド力の強化に迫られている。それには,ITとビジネスをこれまでにないほど緊密に連携させる必要がある。

 最後が,旧来型(レガシー)のアプリケーションとシステム,プラットフォームを近代化し,統合する必要に迫られていることだ。レガシー・システムを維持するスキルを持つ人材を見つけられないという理由だけでも,その必要がある。

 そもそも既存のITシステムは,複雑にからみあった形になっており,対処するには人海戦術しかない。そのままでは,ITによって加速しているビジネスの変化に追随できない。

 多くのCIO(最高情報責任者)は,アウトソースを活用することで,人材不足を解消できると考えているが,それも間違いである。ベンダーも同じようにスキルと人材の不足に悩んでいる。西側の多くの若者は,ITを魅力的なキャリアと考えていない。仕事はきつく,“クールじゃない(格好悪い)”と思っている。コンピュータ・サイエンス,または関連する学位を持った人材が地元から生まれてくることは期待できない。

 人口の年代構成の変化も事態を悪くしている。ベビーブーム期に生まれた人々が定年を迎えつつあり,パートタイムでの労働や起業に関心が向いている。大学の卒業生や20代の人は,IT職を目指すなら,メディアやインターネット関連のビジネスに携わりたいと考えている。

 そもそも米国の学生は科学や技術,工学,数学の学科に入学しなくなっている。そうした分野への関心が高いのは発展途上国だけだ。中国ではITとハイテク関連の大学生が毎年50万人卒業している。

 企業は,こうした人材不足の現状に合わせて計画を立てる必要がある。同じ結果を得るのにより多くのコストがかかり,同じコストでは品質が下がる状況だ。それを避けるための方策を探さなければならない。

 必要なのは,プロジェクト管理やビジネス・プロセスの分析,アーキテクチャやプロセスのモデル化に長けた人材だ。加えてリーダーシップも必要になる。企業は,そうした人材を見つけ出さなければならない。