ハイビジョン動画などの大容量データを送れる近接無線技術が相次いで実用化される。ソニーの「TransferJet」,松下電器産業やNEC,ソニー,韓国サムスン電子などが推進する「WirelessHD」である。Bluetoothなどの既存の規格よりも高速で使いやすい。採用製品が登場すれば,より簡単なデータ転送が可能になる。
TransferJetはソニーが1月に発表した独自開発の近接無線技術(表1)。最大560Mビット/秒のデータ転送が可能だ。FeliCaのようにほかの機器にかざしたり,機器同士を触れ合わせたりだけで,音楽,動画など大容量のデータ転送が可能になる(写真1)。
表1●大容量のデータ伝送ができる近接無線技術が新たに登場 | |||||||||||||||||||||
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写真1●TransferJetのデモの様子 TransferJetのチップを搭載したビデオカメラを,テレビに接続したリーダー装置の上に置く。ケーブルを使わずにビデオカメラ内のハイビジョン映像をテレビに転送し,表示できる。 [画像のクリックで拡大表示] |
数cmの近接無線で暗号化も不要
ソニー 情報技術研究所通信研究部の小高健太郎統括部長は「Bluetoothや無線LANは一般消費者にとっては設定が難しく,機器間でコンテンツを移したいだけなのに,なかなか目的を果たせないことがよくある。だから,タッチするだけでデータをやり取りできる無線規格がほしかった」と開発の意図を語る。そこで誘導電界という仕組みを使って,数cmというごく近接の範囲内だけで伝送するシステムを開発。「かざせば通信できるという直感的な操作感を実現した」(同)。
ごく近接の無線にすることで,「伝送システムがシンプルになり,コストを抑えられる」(同)。他人に傍受される可能性が低いため,暗号化の仕組みもあえて入れなかった。周波数帯域は4.48GHz帯を利用。微弱電波を使うため国内では免許申請は必要ない。
TransferJetの用途としては,デジタルカメラのデータをホームサーバーに送るなど,機器間でのデータの転送を念頭に置いているという。「TransferJetは微弱電波を使うため省電力。携帯電話などモバイル機器への搭載も意識している」(同)。
商用化の目標時期は2009年度内。ソニー製品にとどまらず,FeliCaがそうなったように幅広いプレーヤーに採用を促していきたいという。
賛同メーカー多数のWirelessHD
WirelessHDも2007年1月に仕様が固まったばかり。テレビとAV機器で映像を伝送する際に使うHDMIケーブルを無線化するための技術だ。約10mの範囲内で,最大4Gビット/秒の伝送が可能。1920×1080のハイビジョン映像を同時に複数伝送できる。TransferJetと異なるのは,大型テレビを中心とした利用を念頭に置いている点である。
利用する周波数帯域は60GHz帯で,ミリ波と呼ばれる非常に高い周波数帯である。日本を含めて世界的にも,免許不要で利用できる。松下やソニー,サムスンなど約40社が賛同しており,こちらは2008年内の商用化を目指している。