従来の「見える化」に決定的に欠けているのは,情報のタイムリーさと経営管理全体としての整合性である。これらがなければ,経営のスピードアップや競争優位は得られない。見える化の進化形が備えるべき5つの条件のうち,今回はいよいよ核心部を解説する。企業グループの経営管理には特に重要だ。


酒井幸良,村田達紀
NTTデータビジネスコンサルティング


 私たちが見える化の進化形と位置付ける「CPM(Corporate Performance Management)」の完成形をイメージしていただくために,前回と今回の2回にわたり5つの条件を解説する(図1)。前回は『条件(1)共通の切り口で共通の見方ができる』と『条件(2)管理軸,メッシュ,タイミングが意思決定の単位と合致している』について述べた。今回は,引き続き残りの3つの条件を紹介していく。5つの条件はいずれも重要だが,特に今回紹介するものは,CPMの核心部分と呼べる。

図1●グループ経営管理の条件
図1●グループ経営管理の条件

 なお,CPMはさまざまな組織で利用できる経営管理手法だが,ここでは主に「企業グループの経営管理」を例にとる。この分野の経営管理にまで手が回っていない企業が多いと思われるからである。また,この分野でみられる問題は,多かれ少なかれ,どんな組織にも共通する。

条件(3)必要なレベルでいつでも出力できる

 グループ全体で共通の切り口がそろい,経営管理に使えるメッシュとタイミングでデータが揃ったとしよう。つまり,これらの要件を備えたデータをグループ内の各拠点から集める仕組みが整い,データ・ウエアハウスにタイムリーに集積される仕組みが整った状態である。

 これで有効な経営管理ができる下地が整ったわけだが,まだ「可能になった」だけで,実際に有効な経営管理,意思決定を行える状態ではない。経営管理や意思決定を行うのは人だから,「人が集積されたデータを適時に見て,見たことを起点として必要なアクションを取る」という状態まで導かなければならない。そのためには,業務ルールや業務プロセス・フローを定義することが必要となる。これがCPMの第3の条件であり,従来の見える化において,最も見過ごされていたことの1つでもある。

 前述したように,経営管理は以前から各企業で行われてきたものである。そこには「過去の情報を見る」という業務もあったはずだし,マネジメント層に対して部下が「情報を整理して報告する」という業務もあった。さらに,企業活動の状況を把握したマネジメント層は,部下に対してその後のアクションを指示し,実際にさまざまな打ち手を講じていたはずである。

 では,これら従来の経営管理とCPMとは,一体何が異なっているのだろうか。あるいは,何を変えることが,経営管理をさらに高度化することにつながるのだろうか。

「ムダ」を取り除くだけで経営管理は一変する

 従来の経営管理は,そのプロセス自体に多くのムダが存在していた。「ムダ」とは,主にコストと時間のムダである。ただし,ここで「ムダ」と表現しているもの中には,一昔前までは「ムダ」とは呼べない不可避なものも多かった。近年の情報技術の進歩によって,このような「ムダ」の排除が可能になってきたわけだ。

 例えば,従来は現場の事象を取りまとめて本社に報告することに,多くの作業と時間がかかっていた。そのため,グループ本社と現場との間に情報のタイムラグが発生してしまう(図2)。決算期の状況を想像してみると分かりやすい。企業単体の決算をやっと終え,引き続き連結決算をするとき,そこに現れた計数に関する分析結果をマネジメント層に報告するまで2カ月程度の時間を要するケースも珍しくなかったのではないだろうか。このタイムラグは,そのまま「打ち手」の遅れにつながる。

図2●経営管理の「ムダ」の排除
図2●経営管理の「ムダ」の排除
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 これを防ぐために,「必要な人が必要な情報を適時に見るための仕組み」を整備し,「見た情報を起点として何をすべきかを定義した業務プロセス」を構築する。すなわち,トップマネジメント,ミドルマネジメント,現場担当者といった地位や役割に応じた情報が適時に提供され,社長といえども自らの職務に必要な情報を自分で見に行く,見に行ける仕組みが必要となる。

 同時に,見える情報(指標)のしきい値を定めるなどして,「誰が,いつ,何を見て,どう打ち手につなげるか」といった,PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回すための業務プロセスを定義する必要がある。これを日常業務に組み込むことによって,「情報が見えただけで終わらない仕組み」,言い換えれば「確実にアクションに結びつく仕組み」を整えられる。