コンサルタント
好川 一


 1月にデトロイトで開かれたオートショーに、7年ぶりで参加してきた。オートショーから1カ月あまりが経ち、その間、日本の新聞や雑誌を眺めていたが、今回のオートショーについて「米国勢も環境技術に本腰」と総括する記事が多かったように思う。おそらく、報道陣が参加した「プレス・プレビュー」においてそうした説明がなされたのだろう。

 ただし、私は「チャリティー・プレビュー」の方に参加し、かなり違った印象を受けた。チャリティー・プレビューについてはご存じない方も多いと思うので、雑感として報告してみたい。北米自動車メーカーの戦略を論じるわけではないが、デトロイトの雰囲気を感じていただければと思う。

モータウンサウンド発祥の地、デトロイト

 モーターショーは自動車メーカー各社が最新の自動車を集めて催す展示会のことだが、デトロイト・オートショーは、デトロイトにとって大事な「村おこし」イベントと言える。村おこしという言い方は失礼かもしれないが、デトロイトという都市の再生は喫緊の課題になっている。1960年には150万人あった人口は、ダウンタウン(市中心部)が衰退し、治安が悪化したこともあって、減り続け、現在は87万人になっているからだ。

 ソウルミュージックファンの方にはお馴染みのモータウンレコードのモータウンは、モーター・タウン、すなわちデトロイトに由来する。モータウンレコードは1959年にデトロイトで設立された。当時、ビッグスリー、GM(ゼネラル・モーターズ),フォード・モータース、クライスラーはいずれも好調だった。ちなみにビッグスリーという言い方は今は使わず、もっぱら「D3」、デトロイトスリーという。デトロイトが衰退したせいかどうか、モータウンレコードはインディペンダントレーベルとして存続することが難しくなり、現在はユニバーサル傘下に入り、本社はニューヨークに移転しまい、私のようなオールドファンのために細々と活動を行っている。

東京とは一味違うデトロイトのモーターショー

 デトロイトモーターショーは、大きく四つのイベントで構成されている。プレス・プレビュー、インダストリー・プレビュー、チャリティー・プレビューという三つのプレビューがあり、それからパブリック・ショーとなる。私はチャリティー・プレビューに行って来た。

 チャリティー・プレビューは金曜の夜6時から行われる高級プレビューで、企業のトップ、政治家、いわゆるセレブをデトロイトに集めて行われる。デトロイトの「村おこし」にとってメイン・イベントと言えるだろう。ちなみにチケットは一人400米ドル、チャリティー・プレビューで集まったお金はデトロイトの青少年の育成に寄付される。私はセレブでも政治家でもないが、知人のアメリカ人がチャリティー・プレビューに参加するというので、それに同行したのである。

 チャリティー・プレビューがあることからお分かりのように、デトロイトのショーは、東京モーターショーとはかなり趣が異なっている。全体の印象としては、最新テクノロジーで自動車メーカー各社が競う、というより、年に一度、有名人や政治家をデトロイトに呼んで、「デトロイトに活気を取り戻そう!」といったお祭り(GALA)であろう。実際、ご当地では、GALAと言われている。

 自動車に関して言えば、北米自動車ショーなので、アメリカの自動車メーカーが中心となる。今回、ポルシェやロータスは出展していなかった。また、最新技術の露出についても、あえて低く抑えているのかも知れない。私見だが、日本のメーカーは社内で止めて置いたほうがいいような技術情報を気前よく開示しすぎるように思う。ショーとしては楽しいし、有意義だが、自動車のモジュール化が進んでいる今、技術の開示は慎重に行う時期なのではなかろうか。