(写真:中島 正之、以下同)

 不払い問題で揺れた保険業界は今、各社が新たな戦略を作り、ビジネスを立て直そうとする段階にある。損保最大手の東京海上日動火災保険は、隅修三社長が「正しく、スピードがあり、お客様に好感を持っていただける業務プロセスに変えていこう」と内外に宣言、代理店を交え、新しい業務プロセス作りに取り組んでいる。新業務プロセスを支えるために、情報システムを全面的に再構築、第1弾として5月に自動車保険を扱う新システムを動かす。新業務プロセスと新システムは、6万の代理店に所属する合計40万人が利用する。

 抜本改革に当たっては、東京海上の業務プロセスとシステムを作るのではなく、代理店のためのプロセスとシステムを作り、それを東京海上が使う、という発想で進めている。抜本改革の一翼を担う横塚裕志常務取締役CIO(最高情報責任者)とIT(情報技術)リサーチ最大手ガートナー日本法人の日高信彦社長が、ビジネスに貢献するITのあり方を話し合った。 両氏ともシステムエンジニア出身であるため、エンジニアの可能性から「触媒としてのIT論」まで、突っ込んだ問答が展開された。(構成は谷島 宣之=「経営とIT」編集長)



日高:先日、御社の隅修三社長にお目にかかった時、「CIOを経験せずに社長になっていたら大変だった」とおっしゃっていました。隅さんは社長になる前、4年ほどCIOを経験されたわけですが、その間、会社のことがよく見えたそうです。全体が見えるポジションは社長を除けばCIOしかいない、4年間の経験は貴重だったと話されていました。CIO経験者、あるいはそれに近い経験をされた方が社長になる、こういう人事が日本で一般的になってほしいと思います。

 社長の隅さん、そしてCIOの横塚さんにいろいろと伺っていると、東京海上さんは今、大きなチャレンジをされようとしています。どのように考え、どんな困難に直面され、どう乗りきってこられたのか、お聞きしたいと思います。今日の話は、日本の経営者やCIOにとって大変意義深い話になるでしょう。どこまでお話しいただけるか分かりませんが、できる限り洗いざらいお願いします。

横塚: 思っていることは全部お話しします。もっとも、あまり大したことは思っていません(笑)。

 当社は今、「新しい風」を吹かせようと「抜本改革プロジェクト」と呼ぶ試みを進めています。「抜本」というからには、全部をいったん白紙にして、新しい業務プロセスから考えないといけません。

 抜本改革プロジェクトは、代理店さんと弊社の営業担当者という第一線の業務プロセスを、お客様が「これはいい」とおっしゃるように作り変えることを狙っています。つまり全くのビジネス戦略です。従いまして、ビジネスサイドに抜本改革プロジェクト担当役員として、神田克美専務がおり、「抜本改革推進部」という組織があります。情報システム部門側の役員が私ということになります。 

 現場の改革ですから、ビジネスサイドのリーダーがいた方がプロジェクトの意図を浸透させやすいでしょう。CIOの私が何か申し上げても、「新しいシステムを作っているらしいね」ということになってしまうかもしれないので。

日高:情報システム部門が持つ役割の1つは、情報を切り口にして組織に横串を通すことだと考えています。もちろん、ビジネスサイドに改革意思があることは大事だし、リーダーシップを発揮して現場を牽引していくビジネスリーダーは不可欠です。といってビジネスサイドだけではなかなか改革ができません。

 一般論として、現場の事業部は下手をすると抵抗勢力になってしまう。過去の成功体験がありますし、それなりに部分最適の業務プロセスを持っているから自ら変えたくない。他の部門のことについてはあまり興味を持たない。こうなってしまったら、相当強烈に横串を通さないと改革は進みません。その役割を情報システム部門が担い、ビジネスリーダーと信頼関係を結んで改革を進めていく必要があります。業務プロセスの改革はどのように進めていらっしゃるのですか。