だいだひろ

 皆さん,2008年の目標は何ですか? 私の目標は「健康的に太る」。そう思って食生活を変えようと牛タンを食べましたが,すぐにギブアップ。うーん,パスタなどの穀物で太るか。エビちゃんのように筋肉もつけたいんだけどなぁ。

 最近,業態としてのSI(System Integration)は不人気だ。3Kと言われたり,クリエイティブじゃないと言われたり。確かに,SIer様と働くことが多い私としては,正直この業界で魅力的な人と会うことは少ないとは思う。

 ただ,これだけは言える。プラクティカルという意味で,SIerの方々は非常に優秀だ。なぜなら,物事を構造化してまとめる能力と,決まったゴールを目指して何かを作るという点では,他の業界の人に比べて抜きん出た力を持つから。

 しかし,それでも一緒に働いていると「オヤ?」と思うことは多い。今回は「SIerのジレンマ」と題してSIの実態を紹介したいと思う。

地獄の社内システム

 SIerは,システム構築を生業としている。だから,SIer社員は,皆さんの会社の社内システムよりもはるかに優れた社内システムで業務を進めている…と考えてはいないだろうか?

 ところがどっこい,SIerの社内システムたるやまさに地獄である。これまでいくつかのSIer様の社内システムを開発してきた経験からその実態を語ろう。

 まずUI(User Interface)がイケてない。そもそもSIer様は巨大なので業務がいっぱいある。そのためメニューが煩雑となり,どこに何があるのかわからなくなりがちなのは納得しよう。しかし,本来の業務に必要な勤務時間管理や決裁のシステムが,リンクの海にうずもれているのは納得いかない。

 しかも,権限のある人しか入れないようなリンクには特別なマークをつけるといったことすらしていないので,見たいものがあったときに,クリックしてみないと閲覧可能かどうかがわからない。社員としてログインしているのだから,権限別にリンク表示を分ければいいものを,もちろんそんな工夫も無い。

 やっと目的の業務ページにたどり着いても,そこで待っているのは事務処理フローをサポートしないお助け機能。例えば,社内のルールで「金額○○以上の××勘定科目の決裁は権限△△の人がやる」と決まっていれば,金額と勘定科目を入れた瞬間に,ログイン情報などから決裁のフロー情報をデフォルト入力してくれれば便利なのだが,そんなものは無い。お助け機能とは,ログインしている人が所属する担当全員の名前が小さい字で列挙されるだけなのだ。図体がでかいだけに部門あたりの人数が多いので,まるで視力検査である。

 お客様のシステムなら必ずあるはずの用語説明のメニューも無い。普通ならマウスをかざすと説明が表示されるとか,最悪でもオンライン・ヘルプぐらいはあるものだ。驚くなかれ,私が見てきたSIer社内システムのほとんどは,Wordで作成された文書ファイルへのリンクが紹介されているだけだ。

 もう一度言おう。PDFではない。Wordだ。

 加えて,その文書に書かれた説明がわかりにくい。なぜなら各部署の専門用語が満載で書かれているので,その担当に属さない人から見れば「?」な内容なのだ。

 悲劇なのは利用者,特にSIer様の場合では管理職の方々だ。SIer様に常駐すると,月末に管理職の方々の悲鳴が聞こえる。それは,事務処理が終わらずに,本業に支障が出始めている合図である。

 なぜこんなことが起こるのか? 答えは簡単。SIerの優秀な人は現場に行ってしまうので,社内システム構築のメンバーとして参加する機会が少ないのだ。そのため,せっかく優秀な社員がいても,彼らの意見は反映されずにズタズタな社内システムが作られる。

 これが一般のお客様システムなら破綻するが,そこはSIer。いちおう一般人よりはITリテラシが高いので何とか使いこなす。そのためこの非効率さは顕在化せず,いつまでも改善されない。まさに「地獄」である。

優秀な人はパチンコの右下

 今度は,SIer社内ではなく,プロジェクトの話し。SIerで出世している人を見ていると,技術特化の人は少ない。もちろん技術オンリーの人がすごいと思うわけではないが,中には「?」というような方がわりあいスムーズに出世する。こういうと,「バランス感覚」とか「視野の広さ」といった言葉が出世の理由としてよく言われるが,私の見たところちょっと違うなぁ。

 とにかくいつも思うのは,現場で使える人は常に“疲弊”しているということ。「仕事が集中するから当たり前」というとそれまでだが,集中する仕事の内容が問題だ。やはりSIerは,技術よりもPM(Project Management)力が求められるので,ある程度技術力があると「もう技術は卒業ね」と言われ,管理業務がふられることになる。

 技術力がある人は,基本的にスマートなので事務処理もそつなくこなす。しかし,決裁や文書管理,はては新人の受け入れなど,SIerには際限なく事務処理があるので,すぐにオーバーワークになる。そのため本業がままならない。

 一方,技術力が無い人は「最低限の技術力をつけようか」と技術習得に集中できる。さらに技術力が無いため,即戦力ではない印象(まかせたら危なっかしい的な印象)しか与えないので,事務処理をまかせられることも無い。さらに先輩からのアドバイスで「わからなかったらアイツに聞けよ」と言われるので,技術力のある人の仕事を増やし,自然と彼らの進捗を妨害してしまう。

 こうして,SIerで技術力がある人は,日々を事務処理に追われ,できないやつのサポートで終了する。この恐ろしさは評価の日にやってくる。技術力の無い人は,集中して努力できる環境が与えられるので成長も見えやすく,何よりも上司から「俺のアドバイス通りにやってここまで成長した」とナイスなイメージを持たれる。これに対して技術力のある人は,当初の期待に対して,本業以外の負担で成果が削られているにもかかわらず「こんなもんなの?」と思われる。この印象の差は歴然。

 つまり,優秀な人には雑務と質問という不毛な負荷が集中する。まるでパチンコの右下にどこにも引っかからなかったパチンコ玉が落ちるように,誰も拾わなかった困難が集中する。そのため,私たちの周りのソフトハウス社員は,優秀なSIerの方に会うと「右下」と呼んで敬うようにしている。「下」ではなく「右下」というところにこの言葉の年季を感じてもらいたい。このようにして「優秀な人の負け組」スキームが出来上がっているのがSIerの現実だ。

 4月からSIerに勤めることになる新人には,良心の呵責を感じることなく,誰も助けず,将来のトラブルを防がず,自身が評価されることだけにまい進してもらいたい。実は,これは我々ソフトハウス社員にとってもうれしいことだ。なぜなら本当に優秀な人が出世してくれるほうが,仕事がやりやすいからだ。

 ところでSIerで働くあなた。自分を「パチンコの右下」と思ったことはありませんか? 無いのなら…(汗)

■変更履歴
本文の一部を筆者の希望により削除しました(本文は修正済みです)。 [2008/02/29 11:25]