プロジェクトが火を噴きそうだからPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を入れて立て直す――。これも1つの考え方ではある。だが,プロジェクトの最初からPMOを参画させ,運営を安定化させたほうが,品質面でもコスト面でも結局は得なのではないだろうか。
田口正剛
マネジメントソリューションズ 取締役
プロジェクトの状況が悪化してきたときの打開策として,プロジェクトにPMOを参画させるのは常套手段といえるでしょう。ただし,PMOが途中参画した直後には,新しいマネジメントの導入により一時的に現場がばたつくこともあります。こうした一時的な問題を,「マネジメント・プロセスがうまく回っていないから問題なんだ」という責任転嫁の議論に持っていく風潮が多く見受けられます。
プロジェクトマネジャ:「PMOは,マネジメント・プロセスの改善よりも現場チームのマネジメント支援に入って状況を毎日報告できるようにして下さい」
PMO:「マネジメント・プロセスを改善しないと,PMOは毎日ヒアリングに無駄な時間をかけなくていけません。そうすると,次フェーズを見越した計画作業など,PMOとしてやるべき作業ができなくなり,“その場しのぎ”のプロジェクトになってしまいます。今のマネジメント・プロセスを改善するために,3日ほど時間を下さい」
プロジェクトマネジャ:「今はそんな悠長なことを言っている場合じゃない! PMOは,言われた通りに作業をすればいいんだ」
きちんとしたマネジメント・プロセスを確立してこそ生きるPMO
上記のような状況を見たことがある方は多くいらっしゃるかと思います。書籍やWebなどで「コンサルタントをうまく使う術」といった類の情報が多く出回っていますが,「PMOをうまく使う術」というのは,世の中にそう多くは出回っていないと思います。そのためか,まだまだ“もったいない活用”しかできていないプロジェクトが多いことは否めません。
PMOがプロジェクトに参画する際のパターンは大きく2つあります。
1つは,プロジェクトがうまく推進するように,プロジェクトの開始当初からPMOが参画するパターンです。PMOはマネジメント・プロセスを整備し,プロジェクト状況の見える化を実現します。次フェーズ以降に必要な作業計画の作成も手掛けます。
もう1つは,プロジェクトの途中から,いわゆる“火を噴いた状態”の中に「火消し部隊」として参画するパターンです。そういうプロジェクトではマネジメント・プロセスが定着しておらず,遅延,リソース不足,品質悪化,コスト超過が常態化しつつある状況にあるでしょう。
過去に手掛けた案件や周囲の方の意見を聞く限り,世の中のプロジェクトは後者の「火消し部隊」としてPMOを参画させるパターンが多いようです。この場合,PMOのメンバーには「火消し部隊」としての経験や属人的なスキルが必要になってくるため,実行できる人材自体が少なく,相当な単価(人件費)になってしまうことは避けられません。
コスト面だけで言うと,PMOがプロジェクト開始当初から参画している場合と,問題が起きてから参画する場合とでは,結果的に費用が同程度かかる可能性が高いと思います。場合によっては,火消し部隊のほうが高くつく事態も起こり得るでしょう。
火消し部隊を投入しなければならないと気付くタイミングでは,「時すでに遅し」となっている可能性が非常に高いものです。火消し部隊の役目が,プロジェクトを終わらせるための落とし所を模索する活動に変わっていることも多々あります。
経営層の理解が一番必要
みなさんは,どちらを選択するでしょうか?
マネジメント・プロセスを場当たり的に強化するのではなく,可能な限り事前に準備しておくことは,リスクの軽減につながります。本連載の『プロジェクト内のあらゆる「無駄つぶし」に注力せよ』でも述べた通り,PMOはプロジェクトの管理事務部隊ではなく,プロジェクトの生産性を向上させるための組織です。プロジェクトの開始当初からマネジメント・プロセスを整備し,プロジェクトを円滑に推進できるように準備することを,世の中のプロジェクトマネジャに推奨します。
この考え方は,現場のプロジェクトマネジャだけでなく,組織のマネジメント層の方々が理解しないと,なかなか受け入れられにくいかと思います。本連載を読まれているマネジメント層の方々に,少しでも参考になれば幸いです。
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