皆さん、こんにちは。久しぶりの連載更新です。

 すっかり話題にならなくなりましたが、「Web2.0」・・流行りましたねぇー。「・・・・2.0」という数々の亜種を生み出した言葉でした。

 ウィキペディアによれば、Web2.0とは、「ティム・オライリーらによって提唱された概念で、2004年11月には初めての「Web 2.0 Conference」がサンフランシスコで開催された。その後この用語は大きな広がりを見せ、盛んに用いられるようになった。ティム・オライリーによる定義を超えて新しいビジネスモデルであれば何でも、「Web 2.0」の用語が用いられることがあり、バズワードの様相を呈してきている。」とあります。

 流行に弱く、いとも簡単にネット熱病にかかりやすい日本のWeb業界ではたいへん流行りましたが、応用編も多く本来の意味が希薄になってきているようです。

 もともとはウェブ関係の技術が進展し、ブログ、SNSやWikiなどでユーザーが簡単に自分でも発信できるようになった事からネットユーザーが表現者として登場したことを表す言葉でした。それに加えて、マッシュアップやAJAXなどによって、Web上で展開されるサービスの幅が広がり、ビジネス面でも新しいステージに入ったことを意味するものになった、ということでしょう。

 その言葉が独り歩きした上に経済紙などでも取上げられたせいか、企業のトップが「うちのサイトはWeb2.0か?」などと聞いて、担当者を困らせたなどの笑えない話もあるようです。(苦笑)

Web2.0と企業

 Web2.0に関しては、「Web以前の企業」と「Web以後の企業」によってその持つ意味が全く異なっています。

 言い換えると、Webが出現する前からビジネスをしている企業と、ネット企業やIT企業と呼ばれるWebの出現によってビジネスが成り立つ企業とでは、Web2.0の意味は大きく異なっているということです。

 まず、「はじめにWebありき」の企業は、Web上でコミュニケーションし、ビジネスを展開するわけですから、Web2.0がイコール、ビジネスのネタでもあり、インフラでもあるので、なんとかビジネスに結び付けられないかと知恵を絞ることになります。また、それに対応していかなければ競合に置いていかれることになるでしょう。

 一方で、ビジネスの基本は既存のインフラで、Webは主としてコミュニケーションの手段の一つである企業にとっては、Web2.0はいくつかある課題の一つであるうえに、まだピンとこないせいもあって、早急な対応の必要性は考えていなくて、「当分はWeb1.0で、ひたすら自社サイトの充実を図っていれば良いよ」、と思っている企業が多いでしょう。

Web2.0がもたらすユーザーの意識変化

 しかしながら、ここで考えなければいけないのはWeb2.0がもたらすユーザーの意識変化であって、企業がWeb2.0に脱皮しようがしまいがお構い無しにユーザーはWeb2.0化していくということではないでしょうか。

 (社)日本アドバタイザーズ協会・Web広告研究会・メディアミックス委員会のメディアに関する調査によれば、企業サイトに対するユーザーの意識は徐々に希薄になってきていることが窺えます。

 その原因は、いろいろとあるとは思いますが、もっとも大きな理由はブログやSNSなどのCGMなどの影響でしょう。ユーザーがそれらに時間を取られているということもありますが、それよりもユーザーは企業がサイトで一方的に発信する情報ではなく、ネット上の見知らぬ仲間が発信する情報の方に関心があるということではないでしょうか。

 一つの例ですが、大手のポータルサイトにあるユーザーのお知恵拝借サイトである、YAHOO知恵袋教えてGoo等では300万から1000万を超える質問数に対して数倍の回答数があるそうです。

 実際にサイトを見るとユーザーの質問に対して、実に親切丁寧に回答している人が多いのに感動すら覚えます。

 つまり、何かを購入しようと思っているユーザーや、購入はしたものの使い方が分からない人は、わざわざ企業サイトに行って情報を探さなくても、これらのサイトに行けば同じ立場の人達からすぐに必要な情報が得られるわけです。

企業の建前とユーザーの本音

 また、一方でユーザーが欲しいと思う商品やサービスも変わりつつあります。これまで、企業は良い(と考える)商品を作り、広告でそれが「良いもの」である事を告知していればよかったわけです。

 しかしながら、顧客のニーズの多様化は「良いもの」の概念を変えていると思います。自分たちの意見が反映されていない、あるいは口コミで評判が良い、比較サイトで評判が良い、そのような商品でないと「良いもの」とは判断されないのでしょう。

 それは、時として企業が良いと思うものとは異なっている場合もあるかも知れませんが、その場合には謙虚にユーザーの意見に耳を傾けてみる必要があるでしょう。

 企業の商品開発や研究に携わっている方々は、素人に何がわかるかと思うかも知れませんが、ユーザーが示す数多くのアイデアの中には光るものもあると思います。企業の建前とユーザーの本音、これらが交錯し、互いに影響しあう舞台がWeb2.0の世界なのです。

「Web以前の企業」にとってのWeb2.0

 さて、Web2.0に話を戻しますが、「Web以後の企業」はその存続をかけてWeb2.0に対応しなければ取り残されてしまいます。

 「Web以前の企業」にとってはまだそれほど切羽詰った状況は生まれていないように思えますが、ユーザーが先にWeb2.0対応になってしまっていますから、実はこれは喫緊の課題であるということは前述のとおりです。

 Web以前の企業と言えど、Web2.0がもたらしたオープンで開放的なコミュニケーション環境や、ブログにみるように積極的に発信、参加するユーザーの意思を無視することは出来ない状況になっていると思います。

 それでは、ユーザーの声を聞いて、サービスを改善したり、商品を開発したりすれば良いのかということになりますが、それだけでは実は不十分で、それを「見える化」する必要があるというのがWebの時代の企業姿勢でしょう。せっかく良いことをしていても、それが伝わらなければ無いのと同じだからです。

「耳を傾ける」だけでなく、「見える化」する

 今どきユーザーの声を聞かない企業などは無いと思いますが、それをどのように実現したかを「見える化」することが大事です。

 例えば、味の素のサイトでは、ユーザーの声を元に商品をどのように改善したかを見ることができます。
http://okyakusama.ajinomoto.co.jp/voice/

 また、ANAのサイトでもユーザーの声をどのように反映したかが分かるようになっています。
http://www.ana.co.jp/ana-info/blettine/index.html

 もちろん同様の試みは他の企業にもあるとは思いますが、ユーザーにその企業の商品やサービスに関心を持ってもらい、それらがより良くなっていくわけですから、こんなに良いことはありませんし、それをこのようにして「見える化」することが重要な意味を持っているのだと思います。

 ユーザーから「意見」をもらい、それに企業が「応え」、それを「見える」ようにするという、他のメディアでは難しいWebならではの試みだと思います。

 さて、そこでもう一歩進めて考えてみたいのですが、上記の例はいずれも既に発売した商品やサービスについての試みですが、これから始めるサービスについてユーザーの声を聞いた企業があります。

セカンドライフで「Web2.0」と「見える化」を実現

 それは、スターウッドホテル&リゾートという企業です。

 スターウッド&リゾートはセカンドライフにSIMをつくり、アロフトホテルを開設しました。そして、ブログでユーザーの意見を取り入れて、セカンドライフの中のアロフトホテルをリフォームしていったわけです。
http://www.virtualaloft.com/
http://www.yesbutnobutyes.com/archives/2006/09/previewing_the.html

 現在、このプロジェクトは終了していますが、スターウッドホテル&リゾートはその後もいろいろなイベントをセカンドライフ上で展開して、ユーザーの関心を繋ぎとめています。

 とかく賛否いろいろな意見が多いセカンドライフですが、ここまで素晴らしいアイデアで、しかも企業としてコミットしている意思が貴重だと思います。

 そして、ここに既存企業とWeb2.0の絶妙な組み合わせを垣間見ることができます。なぜなら、ユーザー参加という「Web2.0」の命題と、ユーザーの意見を取り入れて企業がそれを実現するということを「見える化」するという課題を同時に解決してしまったからです。

 実際、自分の意見が反映されてホテルがリフォームされ、実際にホテルが完成したら、一度行って泊まってみようという気になるのではないでしょうか。

 まさにWeb時代のサポーターづくりと言えると思いますし、Web以前の企業が「Web2.0」に対応する多くのヒントがここに隠されていると思います。