資源の供給リスクが問題になる中, 国内に製品として蓄積されているリサイクル可能な金属資源を掘り起こそうという動きがある。

 秋田県大館市は, 2006年12月から, 東北大学, 経産省, DOWAエコシステムなどと共同で, 携帯電話やデジタルカメラなど小型電子機器の回収実験を行っている。スーパーや家電量販店の店頭など30カ所に回収ボックスを設置し(図1), 回収実験を周知するポスターを全戸に配布した。また自治体が回収する一般廃棄物(不燃ゴミ)からも一部,電子機器を分別して回収を行った。

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図1●家電量販店のケーズデンキの入口に置かれた回収ボックス

 2007年3月までの3カ月間の予備実験で回収できた使用済みの電子機器は 約4700個, 重量にして約6.8t。内訳は, ボックスからの回収が1t弱で,不燃ゴミからが約6t。ボックスに多く入っていたものは, 電源アダプタ, 携帯電話, リモコン, 電卓など。不燃ゴミからは, ビデオデッキ, 掃除機, 電子レンジ, MDプレーヤ, デジカメなどを回収した。

 実験を主導する東北大学の中村崇教授は, 日本の新しい資源循環構想として「Reserve to Stock;人工鉱床」を提唱している。使用済みの電子機器を鉱物資源として捉え, 計画的に取り扱っていこうという考え方だ。今すぐにリサイクルができないものであっても, 一定品位以上の有用金属を含むものを一定個所に大量に集約しておく。つまり, 将来必要なときに取り出せるように「鉱床状態」にしておくという発想だ。実現すれば, 国際市場価格に翻弄されることなく, レアメタルを安定供給する道が開ける。

 「今回の実証実験によって, いくつかの課題が見えてきた」と中村教授は話す。

 まず, 廃棄物回収事業の実施に当たって, 自治体の許認可を得るのに時間がかかることがある。家庭から排出される小型家電は一般廃棄物なので, 回収と処理の責任主体は自治体である。大館市で行っている実験は, まず大館市の許可を得た上で, 一般廃棄物業の許可を得ているDOWAエコシステムが回収協力することによってはじめて実現した。

 2007年末からは2年目の実証実験に入っているが, 開始にこぎ着けるのはそう簡単ではなかった。回収エリアを大館市のほか,鹿角市, 北秋田市, 能代市など7市町に拡大したためだ。「市町村ごとに, 回収や保管などの事業計画を議会に提出して承認を得なければならず, 折衝にかなりの時間と労力が必要だった」と, 中村教授は振り返る。

 国内最大級の60万tもの産業廃棄物が不法投棄された瀬戸内海の豊島のように, 資源回収に名を変えた不法投棄は後を絶たない。自治体としても, 事業者による資源保管を野放図に認めるわけにはいかないという事情がある。

 そこで中村教授は, 小型電子機器の収集・保管特区の申請など, 広域エリアで効率的に回収ができる枠組み作りを検討している。同時に, 回収資源を保管する責任を, 企業と自治体の間でどのように担保するか, 具体的な方法について検討を進めていく。

 「人工鉱床を実現するには, 社会に納得してもらえるような保管基準とチェック体制をいかに構築するかにかかっている」と, 中村教授は展望する。

リサイクル原料の専用炉が稼働

 大館市の実験では, DOWAエコシステムの関連会社であるエコリサイクルに電子機器が集められ, 手分解して, メーカー, 製造国, 型式などのデータを蓄積している。今後, 秋田県小坂町にあるDOWAグループの小坂製錬などでレアメタルの回収試験を行っていく。

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図2●秋田県小坂町で2008年春から本格稼働するDOWAグループの新型炉
温度調整機能などに優れ, 鉱石よりも燃えにくいリサイクル原料だけでも稼働できるのが最大の特徴。

 2007年, 小坂製錬では120億円を投じて新型炉を建設した(図2)。「これまではリサイクル原料の投入比率は3割までだったが, 新型炉では100%でも対応できる」とDOWAエコシステム環境ソリューション室長の加藤秀和氏は説明する。新型炉は温度調整機能などに優れ, 鉱石よりも燃えにくいリサイクル原料だけでも稼働できるのが最大の特徴だ。DOWAグループの製錬プロセスを組み合わせれば, 最大19種類のレアメタルを回収できるという。

 DOWAのように, 製錬事業の生き残りをかけ, リサイクル原料からのレアメタル回収に注力する非鉄製錬会社は少なくない。日鉱金属は約100億円を投じ, プリント配線板の焼却灰などから銅やインジウムを回収する設備を茨城県日立市に建設中。2008年夏からの稼働を目指している。また三菱マテリアルも, 三菱商事やフルヤ金属と組んで白金とパラジウムの回収技術に取り組んでいる。

 「問題は, リサイクル原料をいかに安定的に相当量集めるかだ。現在は国内の電子機器メーカーの工程内廃棄物がほとんどで, 家電リサイクル法で定められた4品目以外, 市中から回収されたものは少ない」と加藤氏は話す。

 今後は海外のリサイクル原料の獲得にも力を入れる。すでにシンガポールや台湾などに営業所を構え, 海外工場の基板スクラップを一部受け入れ始めた。「人工鉱床」にも大きな期待を寄せる。

 「常に技術の先を読み, 時代が求めるレアメタル回収に対応できる高度なリサイクル製錬所を目指す」(加藤氏)。グローバルな資源大循環時代の日本を支える環境技術がここにある。