日本のリサイクル政策は, 1991年に制定された再生資源利用促進法が起点である。その後, 2000年に循環型社会形成推進基本法の制定を経て, 家電リサイクル法をはじめ多くのリサイクル関連法が作られた。再生資源利用促進法も, 同じく2000年に,初めて3R(リデュース:廃棄物の発生抑制, リユース:再使用, リサイクル:再資源化)の考え方を取り入れ, 資源有効利用促進法へと改正された。

 パソコンや家電など,生産量が多く,社会に及ぼす影響が大きい製品については,資源有効利用促進法の中で,メーカーなどに3Rへの対応を求めている。その概要を図1に示す。

 法律の対象となるのは10業種69品目。製造から使用後の分別・回収, リユース・リサイクルまで, 製品のライフサイクル全体にわたり様々な取り組みを義務づけている。取り組み内容は7つの類型に分かれ, それぞれに対象となる業種や品目を定めている。

図1●資源有効利用促進法の概要
10業種69品目を対象に,製品のライフサイクル全体にわたり様々な取り組みを義務づけている。取り組み内容は7つの類型に分かれる。パソコンと小型二次電池の2品目は, (6)指定再資源化製品として, 事業者による自主回収と再資源化が義務づけられている。経産省の資料をもとに作成。
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 例えば, (3)指定省資源化製品には, パソコンや自動車, 家電など全19品目が対象となっており, 材料などの使用の合理化などによる省資源設計を義務づけている。

 そうした中, (6)指定再資源化製品として, パソコンと小型二次電池の2品目は, 事業者による自主回収と再資源化が義務づけられている。すなわちはメーカーは, 法規定に沿ったリサイクルシステムを独自に構築し,使用済み製品を回収するとともに,部品や素材の再資源化に取り組むことになった。パソコン以外のIT機器でもメーカーが自主的に回収している製品はあるが,法で規定されているわけではない。

 パソコンリサイクルの一般的な処理フローは図2のようになる。使用済み製品をユーザーから回収し, リサイクルセンターで手分解, プラスチック,金属など素材ごとに分別し,それぞれの資源回収業者(製錬メーカーなど)に引き渡す。

図2●パソコンリサイクルの処理フロー
メーカー系のリサイクルセンターの場合。回収された使用済み製品は手分解され, プラスチック,金属など素材ごとに分別されて,それぞれの資源回収業者(製錬メーカーなど)に引き渡される。出典:産業構造審議会 環境部会 廃棄物・リサイクル小委員会 基本政策ワーキンググループ第6回会合資料。

 このリサイクル制度は,事業系パソコンでは2001年4月から,家庭系パソコンでは2003年10月から始まった。2006年度には合計で約100万台を回収したが, 回収量はここ数年でほぼ頭打ちになっている。

 メーカーはユーザーからリサイクル費用をもらって(有償で), 使用済み製品の回収や再資源化を行う。そもそもの制度設計が, メーカー間で競争原理を働かせることによって, 効率的なリサイクルシステムを作るという狙いがあった。

 ところが使用済み製品の多くが, 廃棄物(ゴミ)ではなく, 有価物すなわち市場で価値を持つことになった。新興国のスクラップ市場の取り引き価格が, 国内の水準を軒並み上回り, 年に数百万台もの家電やパソコンが日本から中国や東南アジアへと運ばれることになった。しかもその一部が現地に深刻な環境汚染を引き起こしている(関連記事1)。

 パソコンのリサイクル制度は, 開始から7年ほど経過した現在, 大きな壁に突き当たっている。法に従ってメーカーが構築したリサイクル・ルートで処理されるのは10数%程度に過ぎない。家電や容器包装のリサイクル制度でも同様の問題が起こっている。

大口ユーザーに「排出者責任」を求める

 政府はこうした現状を鑑み, 2007年1月, 今後の3R政策の方向性を検討するワーキンググループを産業構造審議会環境部会の下に発足させた。そして2008年1月, 1年にわたる検討の成果を報告書「世界最高水準の省資源社会の実現へ向けて~グリーン化を基軸とする次世代ものづくりの促進~」として公表した。

 報告書の冒頭ではまず, リサイクル制度を取り巻く環境の変化について言及し, 「資源価格の高騰と資源ナショナリズムの台頭」, 「自動車や電子機器の製造に不可欠なレアメタルの供給リスク」が重要な問題として浮上しているとの認識を示した。

 また, 家電やパソコンなどの使用済み製品について, 「経済合理性のみの観点から輸出を行うことは, 適正処理の観点や資源の有効利用の観点から慎重に対応すべき」と主張。海外の再資源化プロセスは環境対策が十分でないために処理コストが安く抑えられ, 結果的に国内の高度なリサイクルシステムが活用されていないとした。

 さらに, このまま使用済み製品の輸出が増加し, 国内のリサイクルシステムの運用に支障が出るときには, 「再資源化事業を安定化するための方策が必要」としている。メーカーに再資源化の責務を負わせ, 市場経済にシステム運用の本質を委ねた現行のリサイクル制度の限界とも取れる。

 その上で, 国内のリサイクル制度を立て直す具体的な対策として, 使用済み製品を大量に排出する事業者に再資源化の責務を負わせる「排出者責任」の考え方を打ち出した。

 特にパソコンについては, 事業系ユーザーからの排出が全体の7割程度を占め, そのうちの約6割がリース事業者から排出されている。このためリース事業者に対しては, 排出したパソコンの再資源化の処理状況を, 中古販売業者などに引き渡した後も, リサイクルの実態や処理フローを把握すべきとしている。海外に製品が流れた場合には, 国内と同等以上のレベルで再資源化が行われることを, 排出者に求めていく考えだ。

 だが, 既成のリサイクル制度の枠組みだけでは対処できないほど, 再生資源を取り巻く環境は大きく変化してきている。資源の安定供給のため, またアジアの環境汚染をこれ以上拡げないためにも, 何らかの手を打たなければならない。

 見渡せば, 新たな資源循環の仕組みを模索する動きが一部で始まりつつある。次回は, そうした事例を紹介する。