◆今回の注目NEWS◆

◎社会保障カード(仮称)の基本的な構想に関する報告書について(厚生労働省、1月25日)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/01/s0125-5.html

【ニュースの概要】「社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会」の議論がまとまり、社会保障カード(仮称)の基本的な構想に関する報告書が厚生労働省より公表された。


◆このNEWSのツボ◆

 昨年10月にこのコラムで触れた「社会保障カード」の構想がまとまった。

 年金手帳、健康保険証、介護保険証が一つになって、統合で管理できるという方針は、現在の年金記録を巡る混乱や住民の利便性を考えれば、方向としては正しいと思われる。

 しかし、依然として疑問もある。今回の措置で社会保障関係の業務の利便性、正確性は向上するだろうが、せっかくだから、その利用範囲をもう少し拡大して、更に住民サービスを向上させるという視点は無いのだろうか?

 我が国ではグリーンカード構想の頓挫以来、国民のデータが一元化されることに根強い反発があった。住基カード導入の際にも、結局「国による個人情報の管理」が最大の反対理由であったように承知している。しかし、こうした反発がある一方で、デジタル化による「利便」、「行政サービスの向上」を求める住民の声も存在した。このため、先進的な自治体では、既に発行していた住民向けの磁気カードなどに機能を付加し、住民登録、印鑑証明、納税証明などをKIOSK端末で、窓口閉鎖時間でも交付できるように措置したところもある。

 余談ではあるが、先日筆者は、偶然、居住するエリアで印鑑証明と住民票の写しを入手する必要が生じた。筆者自身は住基カードは持っているものの、(住基カードへの)再登録の手間が面倒なので、印鑑証明カードは従来のものを使っている。すると「KIOSK端末での住民票の写しの入手もできない」のである!!!端末が住基カードにしか対応していないためであるが、住基カードは「窓口まで出向いて入手しただけ」ではメリットは大きくないようだ。これでは何のためにカードを持つのか分からない…。

 今回の社会保障カードも、どうせなら、税務や失業保険などにも使えれば便利なのに…というのが、個人的な思いである。

 社会保障カードが導入されれば、基本的にはすべての住民のデータが登録されることになる。しかもそのデータは医療データにも関連し得る高度な個人情報保護とも関係する。にも関わらず、今回は「個人情報一元管理」の反対の声はあまり聞こえてこない。これは、「今回のような年金業務を巡る混乱を回避できるメリットの方が、情報管理の統合によるデメリットよりも大きい」と多くの国民が暗黙の内に認めている…ということではないのだろうか?

 今回の措置は、厚生労働省という一省庁による検討の結果である。しかし本来であれば、この話は内閣レベルで、個人情報保護のためのセキュリティ議論も含めて「本当の意味で住民のためになるICカード行政の推進」という視点から、また、省庁を横断しての全体最適の視点から考えられるべきではないかと思うのだが、いかがなものだろうか?

安延氏写真

安延申(やすのべ・しん)

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト社長/COO、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。