2008年1月,米映画会社のWarner社がBlu-ray Disc陣営に鞍替えした「ワーナー・ショック」までは,どのパソコン・メーカーも「勝負は2008年の年末商戦で決まる」と考えていた。2007年末の時点では,民生用プレーヤー,パソコン用装置とも,両規格はほぼ互角の戦いを演じていたからだ。それでも,やはりプレイステーション 3の普及効果などで,Blu-ray Discが最終的に優位に立つ可能性が高いとみられていた。

 ただしパソコン業界では,2008年末の時点でBlu-ray Disc規格の優位が確定したとしても,HD DVD規格が消滅するには至らないとみていたという。いずれの規格も,いったん"インフラ"として消費者に定着すれば,例え使用頻度が少なくても,その規格を排除するのは難しいからだ。「長年にわたってパソコンに搭載され続けたフロッピー・ディスク装置や,すべてのDVD規格が読み書きできるスーパーマルチドライブがいい例だ」(テクノ・システム・リサーチ)。例えば東芝は「ワーナー・ショック」以前,パソコン向けHD DVD装置の生産量を2008年から大幅に増やすシナリオを描いていた。Blu-ray Disc装置の供給量が不足気味だったたこともあり,「高付加価値パソコンを売りたいパソコン・メーカーからの引き合いが,2007年末から急増していた」(東芝)という。

 このためパソコン・メーカーは,2008年後半から2009年にかけて,Blu-ray DiscとHD DVDの両規格に対応する装置を本格的に採用するロードマップを描いていたという。既に両対応機を開発していた日立エルジーデータストレージのほか,それぞれの規格を推す光ディスク装置メーカーも,水面下で両対応機を開発,あるいは計画していたもようだ。民生用プレーヤー市場ではBlu-rayDiscが優位になる可能性が高いものの,パソコン市場では両対応機が普及する。これがパソコン業界が描いたシナリオだった。

 Warner社の決断があと一年遅れていたら,この見込みは現実になっていた可能性が高い。東芝のHD DVD撤退により,シナリオは完全に白紙となった。各光ディスク企業は両規格対応装置の開発を中止し,高機能パソコンにはBlu-ray Disc装置が載ることになりそうだ。

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