今まで,携帯電話の進化というと高性能化を指していた。だが2008年1月に開催された展示会で,端末最大手のノキアが「環境問題の改善」を打ち出した新製品を発表。今までとは異なる進化の方向性を示した。消費者の嗜好(しこう)が多様化するなか,携帯電話の新しいコンセプトとして注目を集めそうだ。

(日経コミュニケーション)

 米ラスベガスで2008年1月7日に開催された世界最大級の家電展示会「2008 International CES」(CES)において,一つの注目すべき発表があった。世界最大の携帯電話端末ベンダーであるフィンランドのノキアが,環境を意識した新製品として携帯電話端末「Nokia 3110 Evolve」とACアダプタ「AC-8」,センサー機器「エコセンサー・コンセプト」を展示したことだ。

 CESでは毎年,最新の家電製品が展示・発表され,各メーカーの今後1年間の商品戦略を垣間見ることができる。携帯電話端末ベンダーは,ノキア以外にも米モトローラや韓国サムスン電子などが参加しており,最新の携帯電話端末が多数展示された。多くの携帯電話ベンダーが高性能な携帯電話端末を発表するなか,ノキアの発表した新端末は異色に写った。

 こうした製品が登場した背景として,ノキアが以前から携帯電話による環境問題に積極的にかかわっていたことがある。例えば2006年に欧州委員会環境総局が取り組んだプロジェクトに協力し,「携帯電話の充電完了時にコンセントを外すように」とユーザーに呼びかけた。

 企業の環境問題への取り組みは,商品開発を遅らせるイメージが強い。しかしノキアは,ビジネスを成功に導くためには,製品の全ライフサイクルで環境に対する意識が必要であると主張している。具体的には,「リサイクル可能な携帯電話端末の開発」「環境とのつながりを意識させる機能の開発」「充電完了後の電力の無駄遣いを削減できる機能の開発」を進めてきた。

 今回発表された携帯電話端末は,これらを具体化したものである。

リサイクル素材を使った端末と消費電力を抑えるACアダプタ

写真1●新端末「Nokia 3110 Evolve」の外観
写真1●「Nokia 3110 Evolve」
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 新端末の「Nokia 3110 Evolve」は,プラスチックに石油ではなく植物樹脂を使用しており,きょう体の約50%がリサイクル可能な素材でできている。端末デザインは,エントリー市場向けの「Nokia 3110 classic」をベースにしており,携帯電話の機能・性能を落とすことなく環境を意識した携帯電話端末となっている(写真1)。

 この端末は,端末を収める箱も環境に配慮した作りとなっている。サイズが標準より小さく,箱の60%にリサイクル紙を利用している。

 同端末には,最新のACアダプタ「AC-8」が付属される(写真2)。このACアダプタは,充電が完了すると自動的に電源供給をストップする機能を備え,消費電力をできるだけ小さくするよう配慮されている。「Nokia 3110 Evolve」だけでなく,ほかのノキア製端末の充電にも対応する。

写真2●新型のACアダプタ「AC-8」

ユーザーの環境への気付きを促す「エコセンサー・コンセプト」

 同時に発表された「エコセンサー・コンセプト」は,ユーザーが身に付ける携帯電話端末に環境の測定機能を搭載して,ユーザーに環境を意識させる効果を目指したものである。これは,ノキア・リサーチ・センターで開発された新しい考え方だ。

 このエコセンサー・コンセプトを取り入れた端末として,ストレート型の携帯電話端末と腕時計型の端末がCESで展示された(写真3)。両端末とも,内蔵されたセンサーで自然環境と人体環境(健康状態など)の情報が得られる。NFC(near field communication)を利用して,ユーザー間で情報共有することも可能だ。

写真3●「エコセンサー・コンセプト」を反映したコンセプト端末

 なお,電力供給源としてソーラーパネルを利用。徹底して「環境」を前面に打ち出している。

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 2007年10月に,前米国副大統領アル・ゴア氏が環境問題に対する活動が評価されてノーベル平和賞を受賞するなど,世界的にも環境問題への関心が高まってきている。市場でも,排出権取引が本格化するなど「環境」がキーワードだ。ノキアの環境を配慮した携帯電話端末の戦略は,環境に注目する消費者のニーズに合致する戦略になりそうだ。

中村 邦明(なかむら くにあき)
情報通信総合研究所 研究員
1998年オハイオ・ウェズリアン大学卒,2000年早稲田大学大学院修了。2007年早稲田大学大学院国際情報科博士課程満期卒。国際通信経済研究所勤務を経て2006年より現職。世界におけるワイヤレス通信分野全般の調査研究,コンサルティング業務に従事。なお,移動通信関連調査研究の一環として海外調査を多数経験する。『InfoCom移動・パーソナル通信ニューズレターT&S』(情総研・共著),『電気通信』(電気通信協会)などへの執筆多数。


  • この記事は情報通信総合研究所が発行するニュース・レター「Infocom移動・パーソナル通信ニューズレター」の記事を抜粋したものです。
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