John Thain 氏   John Thain 氏
ニューヨーク証券取引所 前CEO
インタビュアー:
Ken McGee 氏
米ガートナー バイスプレジデント兼リサーチフェロー
Ken McGee 氏

世界最大の株式市場として、圧倒的な地位を築いているニューヨーク証券取引所(NYSE)。2004年からCEO(最高経営責任者)としてNYSEを舵取りしてきたのが、マサチューセッツ工科大学(MIT)で学士号、ハーバード・ビジネス・スクールで修士号を取得したジョン・セイン氏だ。 セイン氏は、「イノベーションはITから生まれる」、「NYSEの新しいハイブリッド市場は、集団的な創造の結果」といった興味深い発言をしている。セイン氏は2007年12月、メリルリンチのCEOに転じている。

本記事は、米ガートナーのThe Gartner Fellows Interviewから翻訳し、日経BP社が発行する「金融ITイノベーション第2号」に掲載されたものの転載です。


――最初に企業規制について伺います。2002年に成立したサーベンス・オクスレー法(SOX法)による規制は厳しすぎると思いますか。

 その答えはやや複雑です。なぜなら、SOX法自体はすばらしいものだからです。SOX法によって、コーポレート・ガバナンスや取締役会の構造は改善したと思います。より多くの権限がCEOから取締役会に移譲されたのは確かです。SOX法404条「経営陣による内部統制の評価」も、その内容は良いことが読めば分かるはずです。

 問題はSOX法自体ではなく、その実施方法でした。何が重要で、実際のリスクがどこにあるかが示されずに404条が実施されたのが問題だったのです。これはエンロン、ワールドコムとアーサー・アンダーセンの事件後だったため、404条の履行方法に関する指針を得られなかった会計事務所は、非常に保守的かつ自分たちにとって安全で、巨額のコストがかかる方法を取り、重要性の原則もリスクに基づく方法も全く採用しませんでした。そのため404条の履行は、証券取引委員会(SEC)の予想の何倍ものコストと、膨大な時間を要するものとなりました。

――行き過ぎていたのがSOX法自体ではなく規制の解釈だったとすると、CEOが望んでいる変化とは何でしょうか。また、あなた自身は何が変わることを期待していますか。

 我々は過去1年にわたり、SECと公開企業会計監視委員会(PCAOB)に働きかけてきました。新たに見直された実施方法と、監査基準第2号(AS2)に代わる新監査基準第5号(AS5)によって、404条の履行はより重要性とリスクに基づいたものとなり、コストも抑制されるはずです。そのためには、SECとPCAOBの望む変更が監査パートナーのレベルで実施されるようにする必要があります。当局の要望や考えが現場に反映されるようにしなければなりません。これが機能すれば、404条のコストは低下するでしょう。