いよいよ山田のチーム作りがスタートした。今回は,「キーマンは誰だ!」と題して,メンバーの個性の把握とキーマンを取り込む秘訣について解説する。

 早速,前回のケーススタディの続きから,スタートしよう。

 経営企画部長から,次期基幹システム再構築プロジェクトのリーダーに任命された情報システム室主任の山田さとし。「主任クラスをメンバーとしてアサインしてもらうよう財務と購買,生産管理部長には頼んである」と部長に聞いていた山田はまず,財務,購買,生産管理部の部長に,どんなメンバーを考えているのかを確認。それを踏まえて,自分なりに製造,営業,開発部門のメンバー像を固めていった・・・。

 あけぼの産業 経営企画部にて。

山田:「部長,次期基幹システム更新プロジェクトですが,財務,購買,生産管理部の推薦メンバーが分かりました。私の方で考えた追加メンバーについても説明させてください」

部長:「分かった。財務,購買,生産管理部の部長は誰を推薦してきたんだい?」

山田:「財務は佐々木主任,購買は伊藤主任,生産管理は鈴木主任です」

部長:「その3人は,チームの中でどんな位置付けになるのかな?」

山田:「そうですね。財務の佐々木主任は,きちんとスケジュール通りに進んでいるかチェックしたり現状業務を正確に把握したりするために必須の方だと思います。購買の伊藤主任は,新しい改革案を考えてユーザー部門と一緒に検討するサブチームのリーダーになってほしいと思っています。それから生産管理の鈴木主任ですが,他部署からの信頼も厚くバランスの取れた人ですので,ユーザーヒアリングの中心メンバーとして考えています。ただ鈴木主任の場合は,どうやって時間を確保するかがポイントですね」

部長:「なるほど。よくメンバーの特徴をとらえているじゃないか。そのほかの部門のメンバーには,どんな人を考えているんだい?財務,購買,生産管理のメンバーは3人とも山田君と年齢も近いし,君がリーダーとしてチームを引っ張っていくためには,後ろ盾とは言わないまでも,よき理解者的存在のベテランが必要だと思うよ」

山田:「はい。私もそう思います。現状業務の調査で製造現場のユーザーをまとめてもらうためにも,製造部門は大ベテランの高田工長を考えています。高田工長には,プロジェクト・チームのサブリーダーになってもらうようお願いするつもりです。営業部門は田中主任,開発部門は藤堂技師長を考えています」

表1●山田の考えたチームメンバーの役割案
部門名前役職ソーシャルスタイルのタイプ分類役割案
情報システム室山田主任友好派(Amiable)・リーダー(チームの和を重視するあまり,スピード感にかける可能性あり)
財務佐々木主任理論派(Analytical )・チームがきちんと進んでいるかどうかのチェック役
・社内の現状業務の調査,把握
購買伊藤主任社交派(Expressive)・新しい改革案の検討
・ユーザー部門と改革案を検討するサブチームのリーダー
生産管理鈴木主任社交派(Expressive)~現実派(Driver)・ユーザーヒアリングの中心メンバー
製造高田工長現実派(Driver)・チームのサブリーダーとして,影のまとめ役
・現状業務ヒアリングの際のユーザーのまとめ役
営業田中主任社交派(Expressive)~友好派(Amiable)・営業部門の改革案検討メンバー
開発藤堂技師長理論派(Analytical)~現実派(Driver)・開発部門への根回し,まとめ役

部長:「なかなか強力な布陣じゃないか。では,チームメンバーは君を入れて7人だね。君の言うとおり,高田工長にはサブリーダーとしてチームをサポートしてもらう必要がありそうだ。田中主任と藤堂技師長については営業と開発の部長に私から話をしておくが,高田工長は君から直接プロジェクトへの参加を依頼してくれないか。高田工長は気難しいから説得は大変だけど,プロジェクトの重要さやサブリーダーになってほしい理由を君の言葉できちんと説明すれば,きっと分かってくれると思う。うまく説得できれば,いいサポーターになってくれるはずだよ」

 製造事務所にて高田工長と。

山田:「高田さん。次期基幹システム再構築のプロジェクト・リーダーをさせていただきます情報システム室の山田です。プロジェクトの件で,お願いがあり相談に来ました」

高田:「急に何だい?」

山田:「突然で申しわけありません。実は高田さんに,今回のプロジェクトのサブリーダーとして参加していただきたいと思いまして」

高田工長:「おいおい,うちの部長からは何も聞いてないよ。それになんのプロジェクトなんだ?」

 山田は,プロジェクトの目的やスケジュール,想定しているメンバー,会社にとってこのプロジェクトがどれだけ重要か,製造部門のユーザーを巻き込んだりチームをまとめるために高田工長がどれほど必要か――を自分の言葉で気持ちを込めて説明した。

高田:「よし,分かった。そんなプロジェクトが動こうとしているのか。ユーザー部門の意見をまとめるためにも,自分が役に立てればうれしいよ。うちの部長には,私から話をしてみよう。自分で手を上げた方が上も承認しやすいだろう」

山田:「ありがとうございます。高田さんに参加していただけるなんて,こんなに頼もしいことはありません」