米Microsoftでよく耳にする“格言”の一つに,「最初はうまく行かないことが多いけれども,2回目か3回目で最終的にライバルを打ち負かせる」というものがある。この言葉がピッタリ当てはまる例を紹介しよう。導入と管理が容易でITインフラの簡素化が可能な,中小企業(クライアント・パソコンが250台程度の環境)向けのサーバー・スイート製品だ。

 最初の試みは1990年代半ばに登場した「Microsoft BackOffice Server」である。サーバーOS「Windows NT Server 4.0」,「Exchange Server」の前身にあたるMessaging API(MAPI)メール・サーバー「Microsoft Mail」(「MS Mail」),データベース「SQL Server 6.5」,米IBM製レガシー・サーバーとの接続に使う「SNA Server」,Webサーバー「Internet Information Services(IIS)1.0」を,一つのサーバー上でバンドルした。Microsoftは,IBMが中規模環境向けコンピュータ「AS/400」で成功したのにあやかり,このようなソフトウエアのパッケージ化を思いついたという。

 BackOffice Serverは大成功したものの,MicrosoftはBackOfficeを構成している自社製品の売り上げに悪い影響が及ぶと考えてしまった。そこで「BackOffice Server 2000」のリリース後(ちょうど,米司法省(DOJ)との独占禁止法にかかわる係争の影響で,Microsoftが公式には「バンドル」という表現を使わなくなったころ),BackOfficeは静かに引退した。

 ところが,Windows ServerやExchange Server,コラボレーション・サーバー「Windows SharePoint Services(WSS)」,修正パッチ・ツール「Windows Server Update Services(WSUS)」をまとめた「統合スイート」製品である「Windows Small Business Server(SBS)」は生き残った。SBSは約75ユーザーまでの環境を対象とするスイート製品で,「Windows Server 2003」リリース後に登場して大きな成功を収めた。構成要素である各サーバーやソフトウエアを細かく改良したことと,使いやすかったことが,SBS成功の鍵だった。

 SBSの成功があまりに素晴らしかったため,Microsoftは新たなミッドレンジ・サーバー・スイート「Windows Essential Business Server(WEBS)」(開発コード名「Centro」)を作ることにした。WEBSは,BackOffice Serverを思い出させ,全世界に140万社ある中規模企業を対象とする市場の扉を開く(関連記事:Microsoft,中堅企業向けサーバー・スイート「Centro」の製品名と提供時期を発表)。

WEBSを構成するソフトウエアとハードウエア


 現在WEBSは限定ベータ試験の段階にあり,2008年の終わりごろリリースされる予定だ。クライアント・パソコンが25~250台,従業員が50~100人,IT管理者が1~5人という規模の企業を想定している。

 WEBSの「Standard Edition」を動かすには,64ビットの物理サーバーが3台必要である。各サーバーは,「Windows Server 2008」と「System Center Essentials(SCE)」(Microsoft内の誰かが「essentials」という言葉を気に入っているようだ)を動かす管理サーバー,「Exchange Server 2007」と「Microsoft Forefront Security for Exchange Server」を動かすメッセージング・サーバー,「Microsoft ISA Server」の次版と「Exchange 2007」ゲートウエイを動かすセキュリティ・サーバーに分かれる。「Premium Edition」は,さらに「SQL Server 2008」も要求する。

 WEBSを選べば,SBSの場合と同じように,各サーバー/ソフトウエアを個別に購入してインストールするよりも設定と管理が楽になる。WEBSはネットワーク内やVPN経由で外部からアクセス可能な集中管理コンソールを備えており,これが設定/管理の省力化に貢献する。この管理コンソールは,ネットワーク,セキュリティ,コラボレーション,リモート・アクセスといった一般的なIT管理業務に対応したベスト・プラクティスに従い,あらかじめ設定が済んでいる。

 WEBSは,「ライセンス管理作業を簡素化する新技術」も備える。WEBSを構成する全製品のライセンスを,WEBS用クライアント・アクセス・ライセンス(CAL)1本で管理できるのだ。管理コンソールを使えば,所有しているライセンスの数と,ライセンスを割り当てたユーザーを確認できる。従業員が退社した場合などは,ライセンスの割り当て方を変えることも可能だ。

 Microsoftは,ユーザーの64ビット・サーバーに導入できる総合ソフトウエア・パッケージとしてWEBSを販売するだけでなく,ハードウエア・メーカーと組んでWEBS搭載アプライアンス(「Windows Storage Server」や「ISA Server」といったアプライアンス製品と似た位置付け)も提供する。富士通と独Siemensの合弁子会社Fujitsu Siemens Computers,米Hewlett-Packard(HP),IBMがWEBSアプライアンス・サーバーを計画している。また,ソフトウエア・メーカーは,Microsoftと契約すればWEBS集中管理コンソールに組み込めるアドインを販売できる。

 まだ製品化されていないWEBSの構成が成功かどうか判断するのは時期尚早だ。ただし,Microsoftは,SBSの制約によらないアップグレードを望むSBSユーザーからフィードバックを受け,それを参考にしたはずである。さらに,メッセージング/データベース管理の専任担当者を確保する余裕などないIT管理部門にとって,単純な設定/移行/ライセンス管理用インタフェースが重要である,ということも学んだ。WEBSの管理コンソールは,家庭用サーバー「Windows Home Server(WHS)」の管理用インタフェースと同様,多忙な“IT何でも屋”の一助になるだろう。