四角利和
E・D・Oコンサルティング代表

 東芝は2008年2月19日,HD DVD事業を終息させると発表した。プレイヤーやレコーダー,パソコンやゲーム機向けまで、すべてのHD DVD関連事業について製品開発と生産を打ち切る。この結果、ブルーレイ・ディスク(BD)方式が次世代DVDの覇者となるが、標準規格戦争に勝ったからと言って、ビジネスとして成功できるかどうかは予断を許さない。
 「規格の勝者必ずしも事業の勝者にあらず」と題した以下の論考は、2005年3月に発行した日経ビズテック No.5年の特集「技術覇権の構造」の一部である。3年前に書かれたものであるが、HD DVDにブルーレイが勝った今こそ再読すべき内容と言える。
 次世代DVDに限らず、AV(オーディオ・ビジュアル)分野の映像録画装置ビジネスの歴史は「標準規格戦争」の歴史であった。VTRに始まり、CD、DVDと、標準規格を巡ってメーカー各社は合従連衡を繰り返してきた。
 過去の経緯を振り返りつつ、規格戦争に真に勝利するためのカギを見極めると、「特許戦略」と「部品も含めた販売戦略」の二つが浮かび上がる。さらに規格戦争そのものの枠組みを超える「ハイブリッド戦略」にも目配りしておく必要がある。(谷島 宣之=経営とITサイト編集長)



 次世代光ディスクの規格争いを巡る報道がかまびすしい。ご存じの通り、松下電器産業やソニーなどが推進する「ブルーレイ・ディスク(BD)方式」と、東芝やNECなどが提案する「HD DVD方式」という二つの規格が業界標準の座を狙って主導権争いを繰り広げているからだ。次世代光ディスクプレーヤーに映像ソフトを提供するハリウッドの映画会社各社を巻き込んで、二つの陣営が互いの主張をぶつけ合っている。

 次世代光ディスクは、DVDプレーヤーやDVDレコーダー、パソコン用のDVD装置などに搭載されている現行DVDの次を担う技術である。現在のテレビ放送映像よりも高精細なHDTV映像を二時間以上録画できる映像録画装置を実現する技術として注目を集めている。

 最近の報道を見ると「家庭用VTRでの規格争いの再現」「消費者の利益を損なう」といった意見が多い。BD方式とHD DVD方式の両規格が激しく争う様子が、一九八〇年代に家庭用VTRで起きた「VHS対ベータ」の規格争いの構図と重なって見えるからだろう。

 家庭用VTRでは、結果的に日本ビクターや松下電器産業などが推進したVHS方式が市場の支持を集め、家庭用VTRの業界標準の座を勝ち取った。その結果、ベータ方式向けの映像ソフトは次第に市場から消え去り、ベータ方式の家庭用VTRを購入した一般消費者は買い換えを余儀なくされた。次世代光ディスクで二つの規格が争えば、この「VHS対ベータ」のときと同じような状況になりかねない、と懸念する声がある。