2007年後半に入り、“Excelレガシー”の継承が深刻な問題になりつつある。Excelレガシーとは、企業の業務部門がExcelを使って自ら開発し、利用を続けてきた「業務システム」を指す。Excelレガシーは、従来は手作業でこなしていた基幹業務に付いて回る「非定型業務」を処理するツールとして、現場で必須の存在になっている。あえて業務システムと呼ぶゆえんである。

 そのExcelレガシーは今、メンテナンスができない状態に陥りつつある。改良を重ねてきたため、肥大化・老朽化している上に、開発を担当した業務担当者が異動や退職でいなくなっていく。これは、情報システムの2007年問題と同一の構図である。

 しかも内部統制が注目され、ブラックボックスのExcelレガシーは大きな問題の一つと見なされるようになった。実際、Excelにまつわる業務のミスが現場で発生している。一連の問題があるなかでマイクロソフトは高機能をうたうExcel 2007を出荷、利用企業は恒例のバージョンアップ問題に直面しつつある。

 これだけの難問を現場の業務部門だけで解くことは不可能であり、情報システム部門が真正面から立ち向かわなければならない。Excelは表計算ソフトにとどまらない、開発生産性の高い「システム基盤」である。Excelを基盤と位置付け、レガシーを継承し、基幹業務を定型・非定型を問わず支えるシステムを作り、維持する。こうした正攻法を貫くために、情報システム部門が実践すべき「十箇条」を紹介する。

 「運用収支を予想するシミュレーションの計算結果が実際と1億円近くかい離してしまった。間違いに気付いたからよかったものの、このまま投資家に公開してしまったらどうなっていたか。背筋が寒くなり、自分が作ったExcelシステムを捨てようと決意した」。

 森ビル・インベストメントマネジメントの富山隆資産運用部長は、2006年10月に起こした、不動産投資物件の収支予測における計算間違いをこう振り返る。原因は、富山部長が作成した「Excelシステム」にあった。

 同社は、「森ヒルズリート投資法人」の投資信託業務を受託している。複数の投資家から募った資金を不動産に投資し、運用益を投資家に配当する業務である。

 富山氏が所属する資産運用部は、年初に立てた不動産の運用収支計画書と月次で収集する物件ごとの収支データおよび会計データを付き合わせ、運用益の予想額を計算し、投資家に毎月報告していた。

 運用益を試算するExcelシステムは、以前からExcelに慣れ親しんでいた富山部長が、関数やシートリンク機能などを組み合わせて開発したもの。同社には情報システム部門がない。そのため、富山部長が1カ月近くかけて自作した。富山部長以外の社員も利益予想や収支分析の業務に必ず利用している、立派な業務システムだった。