商品単価が安い中古本ビジネス。そのなかで、115万人の顧客を抱えるまで成長している企業がネットオフだ。約100万点の中古書籍や中古DVD、中古ゲームソフトをインターネットで販売。価格のコントロールと、無駄を排除した倉庫管理にITをフル活用している。
「日本一のリサイクル支援企業を目指す」―。インターネット上で、中古本などの買い取り・販売を手掛けるネットオフ(愛知県大府市)の黒田武志社長は将来の夢をこう話す。
ネットオフが運営する「イーブックオフ(http://www.ebookoff.co.jp/)」は、月2万~3万人のペースで顧客を増やし、今では115万人が利用するサービスにまで成長している。取り扱う商品は書籍が中心だが、最近ではCDやDVD、ゲームソフトにも拡大。常時在庫する商品点数は実に約100万点に上る。インターネット上の中古書店としては日本最大の規模だ。
一般の書店と異なり、中古書ビジネスは「仕入れられた本しか売れない」という難しさがある。顧客拡大には品ぞろえがポイントとなるが、実店舗での在庫量には限界がある。そこで黒田社長が思い付いたのが「ネット上の中古書店」だった。
ただし、商品の中心価格帯は1冊数百円程度の「薄利多売」。収益性を確保するには、買い取りから在庫管理、販売、配送といった一連の業務プロセスを、ITを使って徹底して合理化する必要があった(図1)。
図1●インターネットを使った中古本売買ビジネスを確立 |
“買い”と“売り”をコントロール
IT活用のポイントはいくつかあるが、最も要となっているのが、買い取り時に査定額を決定する価格データベースである。ネットオフでは、この価格データベースを利用し、市場の人気度と在庫量を天秤にかけたうえで、買い取り価格を決定する仕組みを作り上げた(図2)。買い取り対象となる商品のタイトルやISBNコードなどを入力するだけで、自動的に買い取り価格を表示する。そのため、経験の浅いアルバイトでも買い取り業務の即戦力にできる。
図2●変動する“売り”と“買い”をコントロールする [画像のクリックで拡大表示] |
査定価格をデータベースで一元管理するというアイデアには、黒田社長自身が古書販売チェーンのブックオフコーポレーション(ブックオフ)で修行した経験が生きている。実はネットオフは、ブックオフの起業家支援制度を利用して誕生した経緯がある。黒田社長は、ブックオフのフランチャイズ・チェーン店を経営し、そこで得た資金を元手に独立したのだ。
ブックオフ時代、その強さは「一定ルールに基づいた買い取り業務の効率化」にあると痛感していた。というのも、街中で見かける一般的な古本屋では、本の価値を判断するノウハウが必要で、それを身に付けるには少なくとも10年はかかると言われていた。これに対して、ブックオフは、「持ち込まれた本の市場価値よりも『きれいか』『傷みはないか』といった外観を基準に査定していた」(黒田社長)。こう割り切れば、入ったばかりのアルバイト店員でも査定できる。このローコスト・オペレーションの発想が、成長の原動力につながっていた。
その後、ネットオフを起業した黒田社長は、属人的な“目利き”を不要とする効率化の考えは踏襲しながらも、もっと精巧な仕組みで買い取り価格を決定できないかを検討した。そして行き着いたのが、価格データベースである。
このデータベースには、書籍のタイトルや発売年月日といった基本情報以外に、「市場での人気ランキング」「ネットオフの在庫数量」「ネットオフでの回転率」といった情報が格納されている。これらの情報を基に、適正な買い取り価格を自動的にはじき出す。ブックオフ時代に10円~100円程度だった買い取り価格を、ネットオフでは10円~500円程度まで幅を持たせることができるようになった。売り手にとってみれば、市場価値のある本は、より高く買い取ってもらえる点が魅力になっている。
人気がなくなってきた商品は、不良在庫化しないように随時価格を下げる。このときも、データベースで仕入れ値を把握できているので「赤字の乱売」を防ぐことができる。
これだけ重要度の高い価格データベ ースは、日々、見直すことで精度を保つ。書籍、コミック、CD、DVD、ゲームソフトの5分野それぞれに専任の担当者を配置。1日1回、価格データベースで算出した査定価格を見直し、算出ロジックに誤りがないかをチェックする徹底ぶりだ。
在庫管理は“トヨタ式”
ネットオフを支えるもう1つの根幹が、物流拠点となる倉庫内のオペレーションだ。ネットオフは、愛知県大府市内に約2000坪の倉庫を持ち、ここですべての商品を一元管理している。
Webサイトで受けた注文情報に基づき、顧客に商品を発送するのが倉庫の中核業務だ。具体的には、商品のピッキング、検品、梱包といった業務が発生する(図3)。
図3●“トヨタ方式”を取り入れた在庫管理 [画像のクリックで拡大表示] |
商品単価の安いビジネスにおいて、倉庫内のオペレーションに多大なコストがかかっては収益など出ない。これらの工程をいかに効率よくこなすかに知恵を絞らなければならない。
黒田社長は、「並行して進む作業工程のムダを省くには、生産現場での考え方を導入すればよいのではないか」とひらめいた。そのとき思い付いたのが、トヨタ生産方式だった。ピッキング、検品、梱包という3工程それぞれの標準作業時間を定める。その際、仕掛かり品が工程間に滞留させず、ジャスト・イン・タイムで次の工程に引き渡すのが理想だ。
とはいえ具体的なノウハウがない。そこで、トヨタ自動車やデンソーに勤めていたベテランを迎え入れ、仕組みをゼロから作ることにした。皆で試行錯誤を繰り返して割り出したのは、いくつかの受注案件をまとめて、「約40冊の処理を1サイクル」とする作業の流れだ。この際、ピッキング20分、検品10分、梱包10分で完了させるのが無理のない標準作業時間と定めた。こうすると、その日の受注量に応じて、各工程に2:1:1の割合で作業員を配置すれば、仕掛かり品の滞留が発生せず、スムーズに処理できる。
ピッキング・リストを自動生成
ただし実際に難しいのはピッキングだ。20分という標準時間を厳守するには、作業担当者が広大な倉庫内を無駄なく巡る必要があるからだ。ここでも同社はITを巧みに活用している。倉庫内の商品は、基本的にタイトル別に棚に並んでおり、どこに何を保管しているかをコンピュータで管理。約40冊のピッキング・リストを出力する際は、その日に処理すべき受注案件のなかから、「一筆書きのように、シンプルな経路でピッキングできる40冊を自動的に判断して抽出するプログラムを組んでいる。ただし具体的なロジックは“企業秘密”」(黒田社長)。
作業担当者はハンディ・ターミナルを持ち、そこにピッキングすべき本のタイトルや棚の位置が次々と指示されるので、それに従いながら作業を進めればよい。
ただし、これだけでは商品の取り間違いが起こる可能性もある。そこで商品に管理用のQRコードを印刷した伝票をあらかじめはさみ込んでおき、ピッキング時にQRコードを読み込んでコンピュータでチェックすることで人為的ミスを防いでいる。こうした倉庫内のオペレーションを固めるには1年の時間を要した。
中古本を基軸として、買い取り査定から在庫管理、配送といった基盤を整えたネットオフ。今後は、他の商材にビジネスを拡大したり、顧客データを分析したCRM(顧客情報管理)を充実させていくことで、第2の成長期を切り開く考えだ。
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