冷蔵庫の圧縮機に入っている冷媒といえば、数年前まではフロンや代替フロンがほとんどだった。しかし、今やイソブタンやCO2など自然冷媒(ノンフロン)が急増。今後も徐々にその利用範囲は広がりそうだ。

図1●冷蔵庫の冷却サイクル構造
図1●冷蔵庫の冷却サイクル構造
冷媒は圧縮機で高圧ガスに変化し、凝縮機で放熱しながら液化する。キャピラリチューブで気化しやすいよう減圧され、冷却器で熱を奪って冷やす仕組み
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 冷媒は、ヒートポンプのサイクルの中で圧縮と膨張を繰り返しながら熱を運ぶ役割をする。機械で圧力差を作ることで、容易に気体と液体の状態が変化し、効率的に外部と熱を交換できる冷媒能力が求められ、物質の探索や合成がされてきた。

 1928年、フッ素などを人工的に合成してフロン冷媒が開発された当時、その冷媒能力の高さと、不燃で人に無害という安全性から、「夢の物質」とまで言われ、特に日本では採用が進んだ。フロンには、分子構造に含まれるフッ素や炭素、水素原子などの数や組み合わせの違いからCFC(クロロフルオロカーボン)や、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)など様々な種類が作られ、用途によって使い分けられてきた。

 しかし、87年のモントリオール議定書でオゾン層を破壊する度合いの大きいCFCが規制され、96年には全廃となった。その後、水素を含むHCFCへ移行したが、これも92年に規制対象になり、2020年には全廃とされている。現在は、HCFCから塩素を除いた、HFC(ハイドロフルオロカーボン)への移行が進む。HFCはオゾン層を破壊せず代替フロンと呼ばれるが、CO2の1430倍の温室効果があり、京都議定書で削減対象に挙げられているほか、EU 指令による規制の動きもある。

相次ぐ冷媒規制に各国が対応 自然冷媒に立ち戻る選択肢も

 そこで、人工的に合成したフロン系物質で代替するよりも、もともと自然に存在する物質を冷媒に使おうとの動きが欧州などで出てきた。自然に存在する物質であれば、オゾン層を破壊する心配はなく、温暖化への影響も小さいからだ。

 自然冷媒では現在、CO2、イソブタンなど炭化水素、アンモニアなどが有望とされている()。それぞれの特性には長所と短所がある。この中で、最も早く家庭向け商品に採用されたのがCO2だ。2001年に東京電力とデンソー、電力中央研究所の共同開発によって商品化した、家庭用ヒートポンプ給湯機「エコキュート」に使われた。

表●各種冷媒の基本物性表
表●各種冷媒の基本物性表
ある温度・圧力での冷媒の状態を示すモリエル線図と、冷却サイクルを示した図。CO2は、サイクルの最高圧が臨界点より上なので温度が徐々に下がり、水を熱するのに適している。フロンは最高圧が臨界点より下にあり、一定温度で液化するので、エアコンの方が適している。
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表2●冷媒の状態を示す線図
表2●冷媒の状態を示す線図
フロンはCFC-11、代替フロンはHFC-134aの値を用いて比較
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 CO2は、フロン系の冷媒に比べて高温・高圧にする必要があるため、圧縮機に負担がかかる。それでもあえて採用したのは、CO2がフロンよりも水を熱するのに向いているからだ。CO2は圧縮していくと、「超臨界」という状態になる。超臨界状態とは、気体と液体の中間のような状態で、高温・高圧下に現れる、たくさんの熱を蓄えたガスといえる。

 つまりCO2は、15℃の水を65℃に熱するような温度差がある場合には向いていても、空気を数度だけ効率的に上下させることを求められるエアコンのような場合には効率が悪いとされてきた。そのような特性を見抜きエコキュートを開発した、電力中央研究所・エネルギー技術研究所の斎川路之上席研究員は、「当時、メーカーは扱いやすいフロン系の研究を進めていたが、将来の環境規制のことも考えて自然冷媒を研究しようと思った」と話す。

 2007年にはエコキュートの累計販売台数は100万台を突破。政府は2010年までに累計520万台が普及することを目標としている。エコキュートの実例ができたことで、CO2は優れた冷媒としての認識が広がり、給湯以外への応用研究も始まった。