SaaSを生んだ米国では、調達や人事、ERPなどさまざまなサービスを提供するベンダーが登場している。中小企業から大企業まで浸透し始めた。調達業務のリアーデン・コマースや人事管理のサクセスファクターズなどが注目だ。

■リアーデン・コマース
13万超のサプライヤから調達

 現在、米国で「次のアマゾン・ドット・コムになるのでは」と期待されているSaaSベンダーがいる。企業向けの調達サービスを展開するリアーデン・コマースだ。

 同社は07年に入って本格サービスを開始したばかりだが、07年の前半だけでユーザー数を約30倍の約600社に増やした。ユーザーは、英グラクソ・スミスクラインや米モトローラ、米ワールプールといった名だたる大企業から社員数十人の中小企業までさまざまだ。同社のダン・フォード プロダクト・マーケティング・ディレクタは「年内には1000社に達する見込み」と語る。

調達コストを年数百万ドル削減

 リアーデンは、社員が仕事で必要なサービスを調達するためのポータル・サイトである。出張のために航空券やホテルを予約したり、宅配便を手配したり、Webコンファレンスを予約したりするといったサービスを提供する。

 宅配便の例で説明しよう(図3)。リアーデンのサイトにアクセスし、あて先や荷物の種類を選べば、事業者ごとの料金体系を表形式で一覧できる。急ぎの荷物といっても、冷静に判断すれば、料金の安い翌日午後着のサービスで問題ないかもしれない。「料金を目の前に示されると、社員は自ずと安いほうを選ぶもの」(フォード・マネージャ)。これでコストを節約する。

図3●米リアーデン・コマースは社員向けの調達サービスを展開
図3●米リアーデン・コマースは社員向けの調達サービスを展開
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 例えばグラクソ・スミスクラインは05年末からリアーデンのサービスを利用し、年間数百万ドルのコスト削減を達成したという。同社は、宅配便のほか、航空券、ホテル、レストラン、役員用のリムジンの手配などさまざまサービスを利用している。

 同社のような大企業にとっては、大口契約によるコスト削減効果もある。宅配業者やホテル・チェーンなどとディスカウント契約していれば、その料金を自動的に社員に提示する。これを利用するとコストが自然と下がる。

 リアーデンのサービスを使って、年間で21万個という宅配便のコストを21%削減した企業もあるという。そのうちの11%は、到着日などで安いものを選んだため、8%が安い事業者を選んだため、2%はあて名の間違いによる手数料の削減だった。

 リアーデンには、あらかじめ登録しておいた、あて先や送信元を書いた荷札を印刷する機能がある。郵便番号から住所を検索する機能もあるので、手書きより間違える確率が格段に下がる。

ネットの最新技術をフル活用

 「リアーデンのサービスは、SaaSとマッシュアップが広がってきた今でなければ実現できないサービス」とフォ ード・ディレクタは言い切る。

 リアーデンのサイトでは、3万7000店のレストランを含む13万7000社のサプライヤからサービスを調達。サービス事業者とはすべて、インターネット経由のWebサービスAPIを用いてマッシュアップしている。

 これにより、刻々と変わる空席や価格の情報を社員に提供できるようにする。具体的には、3万店以上のレストランを予約できる「Zagat Survey」などのサイトとつなぎ、効率的にサービスを提供している。

 リアーデンには「アマゾンやグーグルにもそん色のない使いやすいインタフェースを実現している」(フォード・ディレクタ)というWeb2.0的な特徴もある。「社内だからと言って使いにくいシステムはもう使ってくれない」とフォード・ディレクタは強調する。

 リアーデンのサイトでは、Ajaxなどの最新技術を採用している。ホテルやレストランなら、マッシュアップしたGoogleマップで場所を確認しながら予約できる。

 前述のグラクソでも、この使いやすさがものをいった。グラクソには大口契約を反映した出張支援の既存システムがあったが、操作性の悪さが原因でほとんど利用されていなかった。リアーデンに切り替えると、1カ月で半分以上の社員が使い始めたという。

 リアーデンの料金は、企業が調達するサービスの総額を基にした年額制である。このため企業規模に関係なく導入しやすいという。来年以降に欧州や日本での展開を予定している。

 いずれは個人向けサービスに参入するのが同社の目標だ。企業向けで足場を固めた後、「次のアマゾン」を目指す。

■サクセスファクターズ
人材管理で全社の目標明確に

 調達と並んでCRMに続くSaaSの急成長分野といわれるのが人事管理に関する業務だ。米国ではサクセスファクターズやワークデイといった企業に関心が集まっている。

 サクセスファクターズのサービスは、社員の目標設定を明確にし、人事評価の透明性を高めるのに用いる。営業部長なら、自分の目標設定として、コスト管理を徹底する、予算作成の精度を高めるといった評価指標を選び、それぞれの目標値を設定する(写真3)。

写真3●米サクセスファクターズの人材管理サービス
写真3●米サクセスファクターズの人材管理サービス
自ら設定した目標の達成度、社内での現在のランキングなどを一覧できる

 さらに、部下に対してその目標を示し、それに合わせて部下も自分の目標を設定する。サクセスファクターズのデビッド・カレル プロダクト・マーケティング・ディレクタは「目標の連鎖を全社で実現することで、会社全体の目標が、社員全体に伝わる」と話す。

 人事評価も、この目標に合わせて実施する。自己評価などをWebに入力すると、それが上司に提出される。上司は、評価点をつけ、その評価が会社全体で、どの位置にあるのか、または部署全体の平均値がどの位置にあるのかなどを簡単に調べることができる。

 こうして会社の目標や達成度を見える化し、会社全体のモチベーションを高める。現実に欧米の企業では、離職率を大幅に削減した実績も多いという。このほか、各社員の歩合や年俸の管理、採用管理、トレーニングの管理など、さまざまな機能を備える。

毎月の新機能を使うか選べる

 「SaaSとして人事管理のサービスを提供するため、可能な限り使い勝手を高めている」とカレル ディレクタはいう。CRMなどと違い、全社員が利用するものだからだ。

 使い勝手が変わったとき、影響を受ける社員が格段に多い。そのため、バージョンアップにも気を使うという。同社は1カ月ごとに新機能を提供しているが、ほとんどの機能について、各顧客がそれを使うかどうかを選べるようにしている。企業の担当者が評価して、問題ないと判断するまで展開を待つことができるのだ。

 サクセスファクターズは、フォーチュン500社の15%を含む1400社以上にサービスを提供しており、156カ国18言語で使われている。「1つのソースコードでSaaSとして提供し、毎月バージョンアップして機能を追加し続けてきたおかげ」とカレル ディレクタは強調する。

 「こうした仕組みは、パッケージ・ソフトにはないもの。最初からSaaSとして提供しているベンダーには、こうしたノウハウがあるのが強みだ」とカレル ディレクタはいう。