日本でのSaaS普及に最も大きなインパクトを与えたのが、日本郵政の事例。セールスフォース・ドットコムのサービスの導入事例の中でも世界最大規模だ。一方、テンプル大学の日本校は、ERPにまで利用対象を広げた。

■テンプル大学
ERPをSaaSに

 CRMのようなフロント・システムだけでなく、ERPまでSaaSで導入する事例も出てきている。海外大学の日本校としては25年の歴史を持つテンプル大学ジャパンキャンパスがそうだ。

 ネットスイートのSaaS型ERPであるNetSuiteを採用して、使い勝手の悪かった99年導入のクライアント/サーバー型会計システムを置き換え、予算/経費管理やワークフロー管理までを実現する。開発・導入に4カ月をかけ、07年10月に利用を始めた。

 導入の検討は06年10月に開始した。同サービス以外にも、SAPジャパンや日本オラクルのパッケージも検討したが、CRM機能との連動性やコストの安さからNetSuiteを選んだ。

写真2●テンプル大学はSaaS型ERPのNetSuiteを導入
写真2●テンプル大学はSaaS型ERPのNetSuiteを導入
Webサイトからの入学申し込みを一元管理するためCRMの機能も利用している
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 同大学のポール・ロードケップCIO(最高情報責任者)は「初期コストが高いパッケージ・ソフトは失敗したときのリスクが大きい。SaaSなら失敗しても乗り換えが容易だ」と話す。

 すでにテンプル大学はERP以外でもNetSuiteを利用している。06年5月にCRMシステムとしてネットスイートのSaaS「NetSuite CRM+」を導入(写真2)。従来、担当者ごとに表計算ソフトなどで管理していた入学希望者とのやり取りを載せ換えた。「問い合わせを受け付ける当校のWebサイトと連動する形で、入学希望者とのやり取りがデータベースに残るようになり、進捗状況の管理も格段に容易になった」(ロードケップCIO)と評価する。


■藤栄
最新機能をいち早く使う

 生活雑貨卸大手の藤栄は、グループウエアをSaaSとして提供するネオジャパンの「Applitus」を06年11月から利用してきた。全国15拠点の約300人近くにとって日常業務に欠かせない存在となっている。「手間をかけずにAjaxなどの最新技術が使えるようになることが大きなメリット」と同社の梅田孝夫IT推進室マネージャーは語る。

 藤栄は7年前からSaaS型のグループウエアを利用し続けている。当時は、クライアント/サーバー型グループウエアが花盛りだった。

 梅田氏の取引先でもNotesやExchangeなどを続々と導入していたが「そうした人に現状を説明するとうらやましがられる」(梅田マネージャー)。Notesなど、自社のサーバーにソフトをインストールするシステムはバージョンアップにコストと手間がかかる。古いバージョンのまま使い続けるケースも少なくないからだ。

 梅田マネージャーは、ITを使った営業部門の業務改革を1人で支える。「本業は、メールや掲示板を使って営業部門間のコミュニケーションをどう円滑にするかといったもの。システムのお守りは本業ではない。ウイルスなどのセキュリティ対策やサーバーの運用監視を任せられるのもありがたい」(梅田マネージャー)という。

 Applitusの利用料は月額約30万円。利用料の1年分くらいでパッケージ・ソフトが買えてしまう。それでも「自社サーバーを運用管理するために人を雇うより安い」と梅田マネージャーは割り切っている。

■日本郵政
4万5000人が利用

 4万5000アカウントという世界最大規模で、SaaSの利用を始めた日本郵政グループ。貯金や保険、郵便などの代理店業務を営む郵便局会社などが2種類の業務で、セールスフォース・ドットコムのサービスを導入した。

 「民営化までの極めて短い開発期間で実現できる形態がSaaSだったため採用した」と郵便局の松波システム企画部企画役は話す。

 グループ・ビジネスに貢献する戦略的サービスとして期待しているのが、郵便局での顧客情報の管理だ。顧客宅に直接訪問する外務員のいる大規模な郵便局で使う。外務員のいる郵便局は全2万200局中4200局。本社分なども含めて5000アカウントを使う。

 これまで顧客情報は、郵便事業や銀行、保険のそれぞれで縦割りになったシステムで管理していた。保険が満期になった顧客に、定期預金を勧めるといった「クロスセル」はほとんど実施していなかった。今後は、「クロスセル」のため個人情報を利用してよいか、顧客一人ひとりに合意を求め、その情報をセールスフォースに登録する。外務員はその合意をセールスフォースで確認してから訪問宅に出かける。

 クロスセルの許可情報を登録するだけでなく、顧客への対応履歴や販売実績などを登録し、より効果的な営業につなげていく試みも来年には開始する予定だ。

 4万人が利用するのは、窓口などで顧客から受けた問い合わせや苦情を登録し、本社で分析するシステムである。10月1日の民営化スタートから、週約1000件の情報が上がってきているという。