日本でもSaaS導入を積極的に進める企業が一気に増えてきた。損害保険ジャパンはSaaS型のCRM(顧客情報管理)システムを戦略的プラットフォームと位置付け導入範囲を広げる。東京カンテイはSaaSをIT統制に活用している。

■損保ジャパン
戦略基盤として16業務に展開

 2007年4月、損保ジャパンは1つのシステムを稼働させた。このシステムの開発案件がIT企画室に持ちかけられたのは1カ月前の3月のことだ。

 内容は、4月以降に満期になる自動車保険や火災保険を更新する際、対象物件の査定や契約内容が適切かどうかを確認するというもの。各代理店が契約した保険のなかで内容に問題があるものを各支社がシステムに登録し、対応の履歴を記録する。

 損保ジャパンは全国5万7400の代理店、516の支社を抱える。表計算ソフトなどで対応の進捗を管理するのは事実上不可能だ。

 そこで活用したのが、セールスフォース・ドットコムがSaaSとして提供するCRM(顧客情報管理)サービスのSalesforceである。

使いながら現場でシステムを改良

 現場部門とシステム部門の担当者が1室に集まり、システム化する業務の流れをホワイトボードに書き込みながら整理。その場で試用版のSalesforceを使って、画面をカスタマイズし、実際に使用感を試しながら業務のフローを確認していった。

 損保ジャパンの柱本IT企画部課長は「決裁権限を持つ担当者がいれば、8割の作業が終わる。現場部門が実際にシステムを使いながら議論するので手戻りもほとんどなかった」と話す。

図1●SaaSのメリット
図1●SaaSのメリット

 フローの詳細をシステムに盛り込んだ後、IT企画部が1~2日をかけてテスト。本社や各支社などの約1700人が利用する新システムは、1カ月どころか2週間で完成した。「こんなスピード感は、従来のパッケージ・ソフトでは考えられない」と柱本課長は強調する。

 損保ジャパンがセールスフォースを戦略的プラットフォームと位置付け、本格活用し始めたのは05年4月のことである。迅速にサービスを開始できるだけではない。現場でのカスタマイズの容易さや運用管理が不要であること、初期利用コストの安さ、すぐに利用をやめられる点などを評価した(図1)。

 戦略プラットフォームとして最初に利用を開始し、現在も日々改善しているのが、Webサイトや各種広告などに対してコールセンターへ問い合わせてきた見込み客を代理店に紹介し、対応状況を支社もチェックする仕組みだ(図2)。柱本課長は「もしパッケージで同じものを作ろうとすると、3年間でTCO(総所有費用)が5億円といった試算になった。SaaSのほうがコストも抑えられる」と話す。

図2●損保ジャパンはセールスフォースを戦略的プラットフォームとして活用
図2●損保ジャパンはセールスフォースを戦略的プラットフォームとして活用