2008年6月ごろには無料のデジタルTV放送のコンテンツ保護の仕組みが,「コピーワンス」から「ダビング10」に変わるそうだ。ダビング10になると,録画したデジタル放送のTV番組を9回までDVDやBlu-ray Disc(BD)などにコピーできる(10回目はムーブとなる)ので,現在のムーブしかできない状況よりも,利便性が高まるのは間違いない。そこで,私なりにダビング10によって便利になる点と改善されない点を考えてみた。

コピーワンスが使い勝手を損ねる要因だった

 そもそも録画番組をレコーダーで扱う上で,アナログ放送に比べてデジタル放送の利便性を損ねる要因となっていたのは2004年4月(無料のデジタル放送の場合)に導入されたコピー制御の仕組みにある。一般に「コピーワンス」と呼ばれるものだ。

 これはデジタル放送をデジタルデータとして記録する際に,1度だけ記録を認めるというもの。一般的な利用形態を想定すると,その1回はレコーダーのハードディスクに録画するのに利用されてしまうので,録画したものをハードディスクに残したままDVDなどにコピーすることはできない。したがって,ハードディスク上の録画番組をDVDやBDに残したいときは,ハードディスク上の録画データを消して,DVDやBDに移さなければならない。このことを一般的に「ムーブ」と呼んでいる。

 ここで,録画したテレビ番組がムーブしかできないと,何が不便かを再確認したい。私が困った点は大きく2つある。1つめは言うまでもなく,コピーができないこと。単に娘が出演したテレビ番組を安心できる状態で保存したいだけで,できることなら何重にもバックアップをとりたいのだが,それができない。

 BD対応のレコーダーを購入したので,BDに移すことも考えた。だが,BDに一度ムーブしてしまうと,そこから別のメディアに移すことはできないのでためらっている。なぜなら,一般に,記録型の光ディスクは保管状態が悪かったり,長期間保管していたりすると,記録したデータが読めなくなってしまうことがあるからだ。光ディスクのデータが読めなくなるのを避けるためには,一定期間ごとに別の新しい光ディスクにコピー(あるいはムーブ)すればよいのだが,コピーワンスの番組ではそれができないのだ。

 現状,ハイビジョンのデジタルデータのまま番組を保存できて,別のメディア/機器に移せるのは,(一般にはレコーダー内蔵の)ハードディスクしかないようだ。私の場合,娘が出演した番組の録画に利用したレコーダーが,だんだん不具合が発生するようになったので,その後,新しいレコーダーのハードディスクにi.LINKで番組をムーブして保管している。

 ムーブしかできなくて困っていることの2つ目は,ムーブに失敗すると,その録画データが失われてしまうことだ。今時の製品だから高い頻度で失敗するわけではないのだが,私自身まったく失敗した経験がないわけではない。しかも,ムーブする番組は,わざわざ光ディスクにしてまで残しておきたいと思った番組だ。失敗したときのショックは,結構大きく感じられるものである。

ダビング10で悩みは解消されるのか?

 さて問題は,これら2つの悩みがダビング10で解消されるのかという点だ。書くまでもないのだが,2つ目のムーブが失敗したときの問題については,概ね解消されるといえるだろう。最大9回のコピーができるので,1~2回失敗したとしても,やり直せば済む。それ以上失敗するようであれば,利用している機器/メディアに問題があるか,何か使い方を誤っている可能性が高い。

 悩ましいのは1つ目の問題だ。ダビング10であれば,正の録画データ1つに対して,最大9個のバックアップが可能となる。一見,問題が解消されたように感じられるかもしれないが,そうはならない。BDやDVDのような光ディスクに入れた録画番組から,別のメディアにコピー(あるいはムーブ)できない状況は変わらないのだ。

 このことはデジタル放送推進協会(Dpa)が先日発表した,地上デジタル放送の運用規定「ARIB TR-B14」およびBSデジタル放送と東経110度CS放送の運用規定「ARIB TR-B15」の改定案でも,明らかにされている(関連記事)。ダビング10で可能になるのは,レコーダーのハードディスク上にある初代の録画データから,別のメディアに対する9回のコピーと1回のムーブだけ。2世代目となる光ディスクでの「コピー,ムーブ禁止」という扱いは,現在のコピーワンスと変わらないようだ。

 もちろん,何台ものハードディスク・レコーダーがあれば,最初の録画データを,i.LINKで接続した最大9台のレコーダーにコピーすることは可能になる。たくさんのバックアップを持つという意味では,これで問題は解決する。だが,この方法は,お金に余裕がある人でなければできないだろう。個人的には,BD-REのようなリライタブルなメディアの場合には,光ディスクに対してもムーブは認めて欲しいというのが本音である。

 ちなみに,既存機種でも最近のものであれば,アップデートでダビング10対応になるものがある。松下電器産業やソニーなどのAV機器メーカーやパソコンメーカーから,ダビング10対応に関するリリースや案内が出ている。デジタル放送対応のレコーダーを持っているユーザーは,確認されてみてはいかがだろうか。色々不満はあるが,少なくともコピーワンスより利便性は高まるはずだ。